まるで“狂気の沙汰”──ジョブズ時代のAppleを感じさせる「iPhone Duo」のヒンジと製造工程本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/5 ページ)

» 2026年09月11日 15時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 2008年10月14日、Appleは新しいMacBookのボディーを「ユニボディ」と呼んだ。押し出したアルミニウムの塊を、航空宇宙産業から借りてきたCNC(コンピュータ制御の切削機)に載せ、13段階の切削工程で一枚の骨格に削り出す。

photo 当時の17インチMacBook Pro

 ジョナサン・アイブは「従来のノートブックは多くの部品でできていた。新しいMacBookでは、その全てを1つの部品、ユニボディに置き換えた」と説明した。当時の感想を正直に書くなら、「コイツら、本気なのか?」というものだった。

 金属の塊の大半を削りくずにする工法は、本来は試作品を作る際に採用する工程だ。それを年に数百万台のノートブックの量産に持ち込むのは、極端に言えば狂気の沙汰である。Appleは実際にそれをやり、以後10年余りで、アルミの削り出し工程は薄型ノートPCの定番の工法になり、スマートフォンでも使われている。

 そして2026年9月9日、筆者はApple Parkで「iPhone Duo」を触り、基調講演で製造工程の説明を聞き、翌日にAppleへ話を聞いていて、同じ言葉が浮かんだ。

photo Apple Parkで「iPhone Duo」に触れた

 折りたたみディスプレイの折り目を目立たなくする。それだけのために、Appleはあのときと同じ種類、いやそれ以上の”狂気の沙汰”をいくつも重ねているのだ。

 iPhone Duoの仕様や価格、iOSが新しいフォームファクターでどのような振る舞いをするのかは別稿に譲る。本稿はヒンジと、その上に積まれた工程、そしてソフトウェアの話に絞りたい。この製品がCEO交代のタイミングで出てきたことの意味と、それが誰にとっての試金石なのかにも、最後に触れることにしよう。

100点の部品

 iPhone Duoのヒンジは、Appleの説明では100点を超える小さな精密部品から構成されている。開閉の重さは角度ごとに変わる「可変トルクプロファイル」で制御され、閉じる最後の数mmは組み込まれたマグネットアレイが引き寄せて位置を決める。ヒンジを覆うカバーは100%再生チタニウムの3Dプリント品で、鏡面仕上げのグレード5チタニウムのフレームに対して、マイクロブラストのマット仕上げで質感を整えている。

photo 「iPhone Duo」

 実機の手触りは説明の通りだった。開き始めは軽い。サムスンの「Galaxy Z Fold8」やOPPOの折りたたみスマホを日常的に使っているなら、まずそこで違いを覚える。それでいて半分ほど開いた角度でトルクが変化し、手を離しても倒れず、テーブルの上にノートPCの姿勢で立つ。

photo 開く角度によってトルクが変わる。ノートPCのように置ける

 閉じる瞬間は磁石が引き取り、小さな音とともに左右がぴたりと合う。会場のデモでガイド役は「マグネットでパチンといい音がして、ぴったりアライメントが決まる」と言い、筆者が「こういう機構ができることは分かっていたが、量産でやるのがすごい」と口にすると、「まさにエンジニアリングチームが話していること。思い付くことはできる。しかし、どう量産で実現するか。それが問題だった」と返してきた。

 しかし、このヒンジのフィーリングが、この部分に対するこだわりの入口にすぎない。

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