査定時間を短縮、買い取りビジネスのすそ野も広げる――スマホが変えた中古車査定、カーセブンの場合

» 2012年04月17日 16時00分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo カーセブンディベロプメント 代表取締役社長の井上貴之氏

 「この業界はまだ、FAXと紙と電話が主流。データベース化もこれからで、FAXの山が積み上がっている状態」――。そんな中古車売買の世界をスマートフォンで変えようとしているのが、中古車売買のフランチャイズチェーン「カーセブン」の運営を手がけるカーセブンディベロプメントの井上貴之社長だ。

 同社は2011年7月から、スマートフォンを使って中古車の査定業務を効率化する「インスマートシステム」の運用を開始。Android端末から簡単操作で査定に必要な情報を入力できるアプリを開発し、入力された情報をすばやく共有可能にするクラウド型システムを構築した。

 Androidアプリは“誰でも使えるUI”を徹底的に追求しており、「初めて査定業務を行うスタッフでも迷わず使える」と井上氏は胸を張る。2012年からはシステムの外販も開始し、中古車買い取り業への進出を目指す企業を支援しているという。

 井上氏にインスマートシステムを導入した背景と導入効果、今後の展開について聞いた。

Photo Android端末を利用した「インスマートシステム」。2月中旬の時点で504台のAndroid端末が査定業務に使われているという

査定時間が3〜4割短縮、簡単操作で現場の負担を軽減

―― スマートフォンとクラウド型システムは、従来型の査定業務の課題をどのような形で解決したのでしょうか。

井上氏 この業界は紙やFAX、電話が主流で、当社もインスマートシステムを導入するまでは、こうした手段を使っていました。

 まずは中古車を売りたいというお客さんのところに営業スタッフが出向き、車を見て車種や色、型式、オプション装備、車の状態を確認して店長に電話で伝えます。店長はその情報を元に査定表を作成し、それをプライシングセンター(どの車がどの程度の価格で流通しているかをアドバイスするセンター)にFAXします。そしてセンターから店長にFAXの返事が戻ってきて、店長が電話で営業スタッフと話をして価格を検討する――という業務フローでした。

 この方法だと、お客さんをお待たせすることになりますし、聞き間違いなどで情報の精度が落ちる可能性もあります。それを解決するために開発したのがインスマートシステムというわけです。

 インスマートシステムでは、営業スタッフがAndroidアプリから査定情報を入力すると、その情報はモバイル網を通じてAmazon EC2上のデータベースに保存されますから、店長やプライシングセンターは、電話やFAXを使うことなく最新の情報を確認できるのです。このシステムを導入してから、査定の時間を従来の3割から4割くらい短縮できました。

―― アプリの使いやすさについては、どのような点に配慮したのでしょうか。

井上氏 重視したのは、初めて使う人や、2〜3カ月に1回しか使わないような人でも、迷わず使えるようにすることでした。特に、表示される文言は一言一句にこだわっています。というのも、開発側のスタッフは、現場の人とは異なる日本語の感覚で開発しがちなんですね。

 インスマートシステムには、車検証のQRコードを読み取ると、車検の年月日や登録ナンバー、車体番号、ハンドル位置などの情報を自動で取り込む機能があるのですが、圏外で通信できない場合は手入力になります。こうした説明をボタンの上に用意するなどして、操作に迷わないようにしています。

 走行距離や色、グレードなど、車検証から判断できない情報も、候補から選択したり数字を入力したりするだけで済み、今までのように細かい情報を入力しなくていいようになっています。写真も添付できるので、文字で表現しづらい情報はスマートフォンのカメラで撮って送れます。こうした仕組みを用意することで、査定表の精度も上がるわけです。

 現場のオペレーションは変わっていないので、現場の営業スタッフがストレスを感じることもなく、業務が楽になっただけなんですね。一度便利さを実感すると、手放せないと思います。

Photo 車検証のQRコードをアプリで読み取ると、型式や車体番号などの情報を自動で取り込める
Photo 色やグレードは選択式で簡単に入力できる。日本オートオークション協議会の「走行メーター管理システム」など、外部データとも連携している
Photo 査定情報は共有したい相手にアップロードしたことを通知できる。カーセブンのサービスを利用するために使うこともできる

アプリの使いやすさが、買い取り市場への新規参入を促進

―― サービスの外販を初めた経緯は

井上氏 Androidのシステム上の課題が背景にあります。

 Androidは開発の自由度が高く、さまざまな面で制限がかからないところが魅力なのですが、機種依存が激しいのが問題です。OSのバージョンアップのスパンも短いですし、端末ごとにOSや画面サイズがばらばらで、メーカーが独自でカスタマイズしている場合もあります。そのため、多くの端末に対応させるためには継続的な投資が必要になります。

 そこで、この業界の中で幅広く使ってもらうという方針を打ち出しました。競合他社も含め、この仕組みを必要とする企業なら誰でも購入できるようにしたのです。アプリを標準化ツールとして幅広く売って、みんなで負担を下げる――という戦略ですね。

 実は私は、このシステム自体に差別化要素はないと思っているんですね。そしてスマートフォンがらみの社会的インフラは、ものすごいスピードで変化しているのだから、1社でこうしたシステムを維持する時代じゃないと思うのです。業界のみんなでシステムを共有し、負担もみんなで負うことで課題を解決をすることにしたのです。

―― アプリが使いやすいこともあり、新規参入する企業が増えているそうですが。

井上氏 これまで査定業務をしていなかった整備工場やSS(ガソリンスタンド)業界、新車ディーラーの方々に関心を持っていただいています。

 なぜかというと、こうした業界は、これまで買い取りビジネスをやりたいと思いながらも、ノウハウがないため参入が難しかったのです。

 例えば車検の見積もりを出すと、金額によっては乗り換えを検討するお客さんがいるわけです。ここで買い取りのスキルさえあれば、整備工場が買い取りビジネスに参入できる。このノウハウをインスマートシステムを通じて提供できるのです。アプリの使いやすさを重視した理由はここにもあります。

 整備工場やSS業界は、9割以上が中古車売買に手を付けていないので、市場の広がりに期待できるのではないでしょうか。すでに数社がインスマートシステムを使って買い取りビジネスに参入しており、実績を上げています。

個人向け中古車売買アプリも検討

―― 今後のサービス拡張の方向性を教えてください

井上氏 大きなところでは、査定アプリのiOS対応を進めています。あと、デジタル化された中古車情報のデータベースは非常に価値があるので、いろいろと活用したいですね。CSV形式でダウンロードすればいろいろと分析できますし、ほかの業務システムに連携させることも可能です。オークション会場の出品システムに連動させたり業販の商流に乗せたりと、幅広く活用できるでしょう。

 アプリ側では、顧客情報やナビと連携させて利便性を高めたいですね。買い取りの連絡を受けたらルートが表示され、そのルートの通り道にもうすぐ車検や保険が満期になるお客さんがいたら、分かるような仕組みなどを検討中です。

 査定アプリについては、簡単バージョンを個人間売買用アプリとして無料で提供することも検討しています。個人がカーセブンの仲介で、自分の車をゲーム感覚で売買できるようなスタイルを作っていきたいですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年11月05日 更新
  1. ダイソーで1100円の「PD対応20Wモバイルバッテリー」を試す 手頃な価格でそこそこ高速にスマホを充電可能 (2026年10月31日)
  2. 情報漏えいの「おわびメール」が毎日届いてうんざり……漏れた情報別に“最低限やること”をまとめた (2026年11月04日)
  3. 12月から変わるahamoの新料金を検証 165円値上げでも“実質値下げ”になる人は? 他社とも比較 (2026年11月04日)
  4. ドコモだけ鳴らなかった「緊急地震速報」、前田社長がエリアメール不具合を謝罪 (2026年11月04日)
  5. ドコモは「つながって当たり前」をどう実現? 「置局」業務の舞台裏を紹介 (2026年11月04日)
  6. JR東日本「分かりにくい」新幹線券売機を改善へ なぜ、スマホではなく「駅での最短1分購入」を実現? (2026年07月04日)
  7. PayPay、セキュリティ対策は「万全を期すべく総点検している最中」と中山社長 (2026年11月04日)
  8. 「有料放送や配信コンテンツが永久に無料!」──怪しい動画ストリーミング機器に総務省が注意喚起 サイバー攻撃の踏み台に悪用されるおそれ (2026年03月10日)
  9. 【ワークマン】2900円の「エックスシェルター断熱αバックパック」予約販売中 特殊な断熱シートで外気の影響を防ぐ (2026年11月04日)
  10. 「Xiaomi 18 Pro」シリーズ、11月に“世界展開” 「どの国・地域での発売が楽しみですか?」と日本公式X (2026年11月03日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー