まだある、モバイルトラフィック問題を解決する新技術――エリクソンの藤岡氏が解説(2/2 ページ)

» 2012年09月05日 20時07分 公開
[日高彰,ITmedia]
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700MHz帯導入の課題と3.5GHz帯の状況

 今年6月、700MHz帯でNTTドコモ、KDDI、イー・モバイルの3社にそれぞれ10MHz×2の周波数が割り当てられた。この周波数帯はアジア太平洋諸国の共通バンド「APT700」として整備される方向となっているが、今年始めの世界無線通信会議(WRC-12)では、現在700MHz帯を放送に使用している欧州・アフリカ・中東地域でも、放送を低い周波数へ移転してこの帯域を移動体通信に転用を検討する動きが見られたといい、APT700との協調も期待される。

Photo 700MHz帯を主に放送事業用としてきた欧州でもモバイルへの転用の動き

 700MHz帯に関する国内の課題としては、端末が発する電波によるテレビのブースターへの干渉問題がある。700MHz帯の上り帯域はアナログテレビ放送が終了した跡地(710〜770MHz、53〜62ch)を利用するが、端末からの電波がテレビのブースターに飛び込むと、増幅された信号がデジタルテレビ放送の13〜52chにも悪影響を与える可能性があるため、ブースター設置家庭に対してフィルター装着などの対策を施す必要がある。

Photo 710〜770MHzでのテレビ放送は終了したが、既存のUHFブースターはその周波数帯も増幅してしまうため、携帯の電波が飛び込むと地デジに干渉する可能性がある

 また、電波は一般に、発射した周波数に加えてその整数倍の周波数成分(高調波)を含む性質を持っている。今回イー・モバイルに上り帯域として738MHzから748MHzが割り当てられたが、この2倍にあたる1476〜1496MHzは、ソフトバンクモバイルおよびKDDIの1.5GHz帯下り周波数にほぼ一致してしまう。そのため、イー・モバイルの700MHz帯対応端末とソフトバンク・KDDIの1.5GHz帯対応端末が近くにあると、イー・モバイル端末の高調波がソフトバンク・KDDI側の通信に干渉する可能性があるという問題がある。

Photo 700MHz帯の高調波は1.5GHz帯に重なる。特にイー・モバイルの上り高調波とソフトバンク・KDDIの下りがほぼ一致してしまい、干渉のおそれがある

 その一方で、日本の電波法令では高調波など不要電波の発射許容値が諸外国に比べ比較的厳しく定められているといい、これを適用すると国内の700MHz帯に対応するために日本専用仕様の端末を用意しなければならなくなる可能性もある。これは端末調達コストの上昇にもつながるので、3GPP Release 11では業界標準として日本の法令よりも緩いスプリアス規定を策定し、それが日本の法制度にも反映されるよう国内携帯キャリア各社の間で検討が行われているという。

 次世代の新たな周波数帯域として有力な3GHz以上の周波数帯については、ITUや欧州の通信標準化組織であるCEPTなどでは3400〜3600MHzを移動体通信に割り当てる方向となっているほか、日本でも現在は放送事業用となっているこの帯域を順次移動体通信に転用する方針。また米国で3550〜3650MHz、中南米の数カ国で3400〜3500MHzが移動体通信に割り当てられる予定となっているなど、全世界的に3.4/3.5GHz帯が高速モバイル通信に活用される方向は間違いない。

 ただし、これらの帯域を上り/下りに分割しペアード(FDD)割り当てとするのか、それともアンペアード(TDD)割り当てとするのかはまだ決まっていない地域が多い。また、CEPTでは3600〜3800MHzをTDDに割り当てる方針だという。

Photo 3500MHz前後が次世代のモバイル用周波数として最有力だが、FDD/TDDどちらの可能性も残っている

 そのほか、世界的には2300〜2400MHzをTD-LTEで運用するケースが増えており、インド、オーストラリア、サウジアラビアで既に商用サービスが始まっているほか、中国、マレーシア、タイなどでもこの周波数でTD-LTEが商用化される可能性が高い。欧州でもロシア、ノルウェーでTDD方式の免許が付与済みで、アイルランド、スウェーデンで2013年にも商用化の可能性があるなど、TDD方式のグローバルバンドになりつつある。

 日本では現在770〜806MHz帯で運用されているFPU(テレビ中継設備)が、携帯3社への700MHz帯割り当てにともない別周波数へと移転するが、その移転先のひとつとして2330〜2370MHzが用いられる方向であり、2.3GHz帯をTD-LTEの国際バンドとして使用することは難しい模様。

 なお、エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏は、TD-LTEでは上り/下りの切り替えの間にガードタイムとして無送信時間を挟む必要があるほか、事業者間で同期を取らない場合は各社への割り当て周波数の間にガードバンドを設ける必要などがあるため、結果的にはFDD方式のほうが周波数や通信設備の利用効率が高いと説明し、同社としてはFDD方式のLTEをより強く支持していると話す。ただし、TD-LTEの需要も高まっており、市場の要求に応じてどちらの方式にも製品を提供できる体制を整えているとしている。

Photo 上り/下りそれぞれの帯域を用意する必要がないのがTD-LTEのメリットだが、周波数帯をフル活用するには事業者間の同期が必要となる
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