“待ったなし”のトラフィック対策、Ericssonの提案はMobile World Congress 2012

» 2012年03月05日 20時08分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

 スマートフォンやタブレットに加え、車や家電などの身近な製品が次々とネットワークにつながっていく未来像を示すEricsson。そんなEricssonがMobile World Congress 2012で披露したのは、来たるネットワーク社会で快適かつ安定したモバイルネットワークの運用を実現する技術の数々だ。

 中でも注目を集めたのは、通信キャリアが“待ったなし”の対応を迫られているトラフィック対策向けの製品だ。Ericssonブースでは、複雑化するネットワーク制御をいかに効率よく運用するか、どのようにオフロード対策を行うか――といったキャリアの課題を解決するための各種ソリューションを展示していた。

トラフィック対策はさまざまなアプローチで

Photo マッツ・ノリン氏

 急増するモバイルネットワークのトラフィックは、どの通信キャリアにとっても喫緊の課題となっている。Ericssonでモバイルブロードバンドチームを率いるマッツ・ノリン氏は、急増するトラフィックの現状を次のように説明する。

 「2011年には4億8800万台のスマートフォンが出荷されており、トラフィック対策に注目が集まっている。ユーザー調査では、70%が『ネットワークの性能がよければ通信キャリアを乗り換えない』と回答しており、ネットワークの管理はますます重要になってくる」(ノリン氏)

 こうした事態を受け、Ericssonが新たに立ち上げたのが「スマートフォンラボ」だ。スマートフォンとひと言でいってもその種類はさまざまで、ネットワークに与える影響も異なる。それを細かく分析して端末メーカーにフィードバックするとともに、通信キャリアのネットワーク制御にも役立てる。

 「スマートフォンにはさまざまな種類のOSがあり、同じOSでもバージョンが異なるものが混在する。さらに、同じAndroidでもメーカーによって異なるカスタマイズがなされている」(ノリン氏)。同氏は今のモバイルネットワークは“ルールのない高速道路”のようなもので、「車が勝手に曲がったり、止まったりするような危険な世界」と指摘する。スマートフォンラボでは、主要な端末メーカーを招いてライブネットワーク上で端末のテストを行い、エンドユーザー視点でフィードバックしているという。

 通信キャリアの支援策としては、ネットワークのモニタリングや最適化を行うソリューションを用意しており、会期中にも「Smartphone Network Optimization」を発表している。例えば新宿駅のように1日数百万人が利用するような場所では、1つの基地局に集中しているトラフィックをほかの基地局にまわすなどの提案ができるとノリン氏は説明する。

 そして基地局側のトラフィック対策として挙げるのが、HetNet(ヘットネット)だ。マクロセルの中にピコセルを混在させてネットワークのキャパシティを増やす手法で、スループットは2〜10倍の改善が見込めるという。ノリン氏によればHetNetの導入には(1)既存ネットワークの改修 (2)ネットワークの高密度化(3)ピコセルなどによるキャパシティの追加 という3ステップを踏む必要があるという。

Photo ヘットネットの構築例。紫の丸が基地局。ビルの上に基地局があり、街頭には小型のピコ基地局を多数設置する(画面=左)。会場ではヘットネットをテーマとしたエリアを設けてデモや説明を行っていた(画面=右)

Photo LTEプロダクトマネージャのハンナ・マウレ・シブレー氏

 現在、多くの通信キャリアが対策を進めているWi-Fiへのオフロードについては、MWCの会期中にWi-Fiを統合した小型基地局を発表した。EricssonはMWCの開幕直前にカナダのWi-FiチップセットメーカーBelAirの買収計画も発表している。ノリン氏はBelAir買収の狙いについて、「Ericssonの無線製品のポートフォリオにキャリア品質のWi-Fi技術が加わることになる」と説明した。

 周波数帯の利用効率を高めるLTEへの移行も、トラフィック対策の1つだ。LTEプロダクトマネージャのハンナ・マウレ・シブレー(Hanna Maure Sibley)氏は、EricssonのLTEネットワークの品質に自信を見せる。無線専門のリサーチ会社Signals Research Groupのデータによると、Ericssonのネットワークは他社よりも高性能で、他社がEricssonレベルのネットワーク品質を提供するには基地局を50〜60%増やさなければならないとのことだ。

回線交換方式の3GとVoIPのLTE間をスムーズにハンドオーバー

Photo LTE製品トップのトマス・ノレン(Thomas Noren)氏

 LTEサービスの中で注目を集めているのが、LTEネットワーク上でオールIPの音声通話を実現するVoLTEだ。2012年から徐々に商用サービスがスタートするとみられており、EricssonではVoLTEの普及期に欠かせないハンドオーバー技術「SRVCC」(Single Radio Voice Call Continuity)のデモを展開していた。

 SRVCCは、VoIP方式で通話するLTEのカバーエリアを出た場合にも、回線交換方式のW-CDMAエリアで途切れることなく音声通話を続けられるようにする技術。SRVCCはLTEが行き届くまでの過渡期の技術となるもので、LTE製品を統括するトマス・ノレン(Thomas Noren)氏によると、実用化は2014年ごろになる見込みだ。

 もう1つ、LTE関連の技術で注目なのが、LTEネットワーク上で複数端末に同時にデータ送信可能にするLTEブロードキャストだ。Ericssonはオフロード対策としても期待されるこの技術について、Qualcommと共同でデモを披露した。

 LTEブロードキャストの利用例として、シブレー氏は、(1)緊急警報やニュースなどライブTVのブロードキャスト(2)ビデオオンデマンド(3)スポーツやコンサートなどのライブイベントを挙げている。

 LTEブロードキャストはRelease 9で標準化されており、シブレー氏によれば実用化は2014年ごろになる見込みだという。

LTE-Advancedはキャリアアグリゲーションから

 シブレー氏は、LTEの次の規格となる「LTE-Advanced」(3GPP Release-10)の動向にも言及した。LTE-Advancedは通信速度1Gpbsを視野に入れた高速通信規格で、最初のコンポーネントとなりそうなのがキャリアアグリゲーションだ。

 キャリアアグリゲーションは、別々の周波数帯にあるキャリア(搬送波)を束ねて仮想的に1つのキャリアとして使う技術。Ericssonは2年前に初めてキャリアアグリゲーションを披露しており、MWCでも20MHzのキャリアを3本束ねた技術を展示していた。

 Ericssonでは、最初のトライアルは2013年前半、商用サービスの開始は2013年後半になると予想しているが、端末側のサポートも必要になるため、もう少し時間がかかる可能性もあるとしている。

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