かつては「電気はためておけない」とよく言われたが、住宅用蓄電池や産業用蓄電池の普及が始まり、電気はためておいて必要なときに使えるものになった。経済産業省も蓄電池購入者に補助金を出すようになった。今回のキーワード解説では家庭用、産業用の蓄電池について解説する。
現在、各メーカーが出荷している住宅用、産業用の蓄電池には2つの機能がある。1つ目は停電時の備え。災害などで停電したとしても蓄電池に電力をためておけば、ある程度の時間は電気を使える。諸外国とは異なり日本では1世帯当たりの年間平均停電時間は短く、数十分程度でしかない。東日本大震災に伴う計画停電でも1回当たり2時間程度だった。日本における停電時間を考えると、現在市販している住宅用、産業用蓄電池の蓄電容量は十分なものと言える。
しかし、台風などの大災害で長時間停電を強いられると持ちこたえられない。住宅用蓄電池の蓄電容量は大きいものでも6kWh程度。蓄電池の電力を使える時間は使い方にもよるが、蓄電容量が5〜6kWhの製品を販売しているメーカーは「およそ2日間の間、電力を供給できる」としていることが多い。産業用蓄電池でも、2日間としていることが多い。
蓄電池の性能を評価するときは蓄電容量だけでなく、出力も評価する必要がある。出力の大きさによって、同時にどれくらいの電気機器を利用できるかが決まるからだ。現存する住宅用、産業用の蓄電池の出力では、日常使っている電気機器を停電時にすべて使えるとは限らない。家庭用蓄電池の場合、出力は大きいものでも2000W程度。
例えば、20アンペア契約を電力会社と交わしている世帯では、100Vの電気機器を同時に合計2000Wまで同時に使える。2000Wという値は出力が大きい家庭用蓄電池の出力値と一致するが、20アンペア契約を結ぶ世帯は一人暮らしの世帯であることがほとんど。一般的な世帯で蓄電池を使うときは、どうしても使う電気機器を限定せざるを得ない。
蓄電池の用途としてもう1つ、ピークシフトが挙げられる。夏の最も暑い時間帯は、電力会社の供給能力を需要が超えそうになる。このような時間帯は電力会社からの受電を最低限にとどめ、夜の間に蓄電池にためておいた電気を使う。
東京電力や関西電力は、一般家庭向けに、時間帯に応じて電気料金単価を変動させる時間帯別料金プランを導入しようとしている。時間帯別料金プランでは、需要が逼迫する時間帯の電気料金単価を高く設定しているので、蓄電池を利用したピークシフトが有効に働く。
蓄電池にはさまざまな種類があるが、住宅向け、産業向けともに、現在はリチウムイオン蓄電池が主流になっている。経済産業省は、据え置き型のリチウムイオン蓄電池購入者に補助金を出している。リチウムイオン蓄電池を利用する理由としては、エネルギー密度、出力密度がほかの方式の蓄電池に比べて高いという点が挙げられる。
エネルギー密度とは、体積、重量当たりにどれくらいの電力をためられるかを示す指標。出力密度は、体積、重量当たりで、どれほどの出力を発揮できるかを示す指標だ。簡単に言えば、リチウムイオン蓄電池は小さく軽い電池に大量の電力をためられて、出力値も高くできるということだ。
かつてのリチウムイオン蓄電池は、電極に希少金属であるコバルトを使用していたため高価だったが、マンガンなど、安価に入手できる素材を利用した電極が実用のものとなり、価格は下がりつつある。電極の改良で、エネルギー密度、出力密度を向上させる研究も続いており、少しずつ成果が出ている。
ただし、電極に使用するリチウムの確保が難しくなる可能性もある。こうなると他国からリチウムを購入することになるので、リチウムの価格が上がり、リチウムイオン蓄電池の価格は下げにくくなってしまう。
リチウムは希少金属ではないが、産業に利用できる程度のまとまった量を採掘できる場所は限られる。世界のリチウム埋蔵地を見ると、およそ8割が南米に集中している。まとまった埋蔵量を期待できる場所の採掘権を確保できないと、リチウムの確保は難しくなる。
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