一般送配電事業者の「インバランス料金」、競争を促す新体系に動き出す電力システム改革(20)

電力は常に需要と供給量を一致させなくてはならない。発電事業者や小売事業者が計画どおりに電力を確保できなかった場合に生じる「インバランス」は一般送配電事業者が調整することになる。そのコストを各事業者に適正に配分するために、新たな料金設定のルールづくりが急がれる。

» 2014年10月06日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

第19回:「発電と小売をつなぐ一般送配電事業者、需給調整能力に課題が残る」

 現在の電力市場では発電事業者は電力会社と「卸供給契約」を交わし、小売事業者は「託送供給契約」を結ぶ必要がある。発電事業者は契約で決めた出力に合わせて送配電設備へ電力を供給する。同様に小売事業者も契約電力に従って顧客に電力を販売するルールである。この枠組みは小売全面自由化後も基本的に変わらない。

 ただし発電事業者や小売事業者が契約を交わす相手は、電力会社ではなくて「一般送配電事業者」になる。実際には電力会社の送配電部門だが、従来との違いは電力会社の発電部門や小売部門も同様の契約を一般送配電事業者と結ぶ点にある。各事業者は契約をもとに発電計画と需要計画を確定させたうえで、日常の発電・小売を実施する流れになる(図1)。

図1 電力小売全面自由化後の需給調整スキーム(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 ところが発電も小売も必ず計画どおりに進むとは限らない。発電設備がトラブルで運転を停止することもあれば、需要が計画値を上回ってしまうこともある。その結果、需要と供給量が一致しない「インバランス」が生じる。電力は常に需要と供給量を一致させる「同時同量」が原則で、このバランスが崩れると電力が不安定になる恐れがある。

 インバランスを解消する役割は一般送配電事業者が担う。これまでは電力会社が地域の発電量と販売量の大半を抱えていて、内部で調整できる割合が大きかった。小売全面自由化後は電力会社の発電部門と小売部門も一般送配電事業者にインバランスの調整をゆだねる形に変わる。

 ここで問題になるのが、一般送配電事業者がインバランスを解消するために調達したり買い取ったりする電力のコストを各事業者に配分するルールだ。現在でも電力会社はコストをもとに「インバランス料金」の単価を決めて、不足あるいは余剰の電力量に応じて費用を回収している(図2)。このうち余剰電力の買取料金だけは規制の対象外で、電力会社が自由に決めることができる。

図2 インバランスに伴って発生する料金。出典:資源エネルギー庁

 さらにインバランス料金には発電事業者と小売事業者にとって厳しいルールが設けられている。電力が不足した場合に補給を受ける割合が計画値から3%を超過すると、「変動範囲外」とみなされて3倍の料金を課せられてしまう。一方で余剰分が3%を超過した場合には、電力会社が買い取る分は無償になる(図3)。

図3 インバランス料金制度の進展(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 2014年7月の時点で各電力会社が設定しているインバランス料金は、3%以下の変動範囲内であれば、1kWhあたり14.3円が平均単価である(図4)。電力会社が企業向けに販売する高圧の単価よりも少し高い程度で済む。しかし3%超の「変動範囲外」になると、夏季の昼間には3倍以上の48.2円に跳ね上がる。

図4 電力会社のインバランス料金単価(単位:円/kWh。2014年7月時点)。出典:資源エネルギー庁

 このような事業者にとって制約の大きいインバランス料金が設定されていることも、電力市場の健全な競争を阻害している1つの要因になっている。小売全面自由化後のインバランス料金をどう設定するかは、競争を促進するうえで極めて重要な課題だ。特に発電量や販売量が少ない事業者には3%超の変動が発生しやすいことから、小規模の事業者に配慮した新しいルールを設けることが望ましい。

第21回:「固定価格買取制度による電力は宣伝できない、政府がガイドラインで規制へ」

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