カーボンナノシートを簡易に合成、低コスト燃料電池への応用も期待蓄電・発電機器

物質・材料研究機構らは、新しい電子材料として期待されるカーボンナノシートの簡易合成手法を開発。高価な白金を用いない燃料電池の触媒膜への応用などが期待できるという。

» 2018年07月11日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 物質・材料研究機構(NIMS)は2018年7月、名古屋大学、東京大学と共同で、新しい電子材料として期待されるカーボンナノシートを、簡易に合成する手法を開発したと発表した。高い導電性を生かした太陽電池やタッチパネル、高価な白金を用いない燃料電池の触媒膜への応用などが期待されるとしている。

 グラフェンに代表される、二次元状の炭素材料であるカーボンナノシートは、高い導電性や触媒機能も持つため、新しい電子材料や触媒膜として注目を集めている。高品質なカーボンナノシートを合成するためには炭素を多く含む分子を、ナノスケールで構造を制御しながら組み上げることが必要になる。しかし、そのためには高度な手法や高価な装置が必要であり、しかも最終段階において高温で焼成し炭素化する際にナノ構造が崩れてしまうという問題があった。

 研究グループが開発した手法は、ビーカーの水を撹拌(かくはん)して渦流を生じさせ、水面に輪状の炭素分子であるカーボンナノリングを展開し、しばらく静置させることで生じる自己組織化した薄膜を基板に写し取る。これにより厚さ10nm(ナノメートル)未満かつ、100μm2にわたって均一な分子薄膜を得ることに成功した。一般的な実験室で利用されるビーカーと攪拌装置のみで再現でき、1ng(ナノグラム)と非常に少量のカーボンナノリングから1m2(平方メートル)のナノシートを作製できる。

カーボンナノリングを用いたカーボンナノシートの合成 出典:NIMS

 このカーボンナノリングから構成される分子薄膜は数十nmの無数の孔(メソポーラス)を持ち、焼成後して炭素化した後もメソポーラス構造を保持したカーボンナノシートが得られた。焼成前のナノシートは電気が流れない絶縁体だが、焼成し、カーボンナノシートとすることで導電体へと変化する。つまり、焼成により炭素同士が結合し、強固なネットワークを持つカーボンナノシートを形成することが示された。ナノ構造を保持したまま炭素化できる事例はめずらしいという。

 さらに、カーボンナノリングに窒素を持つビリジンを加えることで窒素を含有したカーボンナノシートを作製。X線光電子分光法(XPS)により、カーボンナノシート内の窒素は有用な触媒活性を示す電子状態であることが示された。

 今回開発した薄膜作製法は、これまで均一な薄膜を作製するのが困難であった分子や材料に適用でき、必要な器具もビーカーと攪拌機のみと簡便なため、広く利用されることが期待されるとともに、大面積化することで工業的にも展開可能としている。さらに触媒活性を示すと予想される窒素を含有したカーボンナノシートの合成にも成功しているため、高価な白金を用いない触媒として燃料電池への応用も期待できるとした。

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