環境分野で最重要の格付指標となった「CDP」、効果的に活用するポイントとは?「ポストパリ協定時代」における企業の気候変動対策(5)(1/4 ページ)

「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。最終回となる今回は、ESG投資家が企業の気候変動対策についての重要指標として参照する「CDP」の活用手法と、気候変動対策に関する企業の「情報発信」の手法について解説する。

» 2018年12月14日 07時00分 公開

第1回「世界で広がるESG投資、企業も気候変動対策を無視できない時代へ」

第2回「気候変動対策の“主役”は、なぜ国から産業界へシフトしているのか」

第3回「環境目標の“科学的な整合性”を裏付ける、SBT認定の手順とポイント」

第4回「世界トップ企業が加盟する「RE100」、日本企業が「再エネ100%」を達成するには?」

 本稿では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取り得るべきか、どのような対外発信を行い得るのかを考えていきたい。

 前回は日本企業の加盟も増えている国際的な環境イニシアチブ「RE100」について、その概要と日本企業が達成するための具体的な手法を紹介した。最終回となる今回は、企業の環境情報を開示している「CDP」の概要と、CDPが企業に対して送付する質問状についての効果的な回答方法を解説する。また、本連載で述べてきたような一連の企業における気候変動対策の内容を、どのように対外的に発信していくかについても考察してみたい。

本連載で解説予定の制度/イニシアチブ

ただの環境NGOではないCDP

 CDPは2000年に英国にて設立された国際NGOであり、世界で唯一、企業の環境情報の開示を行っている。ただの環境NGOと思うのは間違いで、世界中の機関投資家(保険会社、投資信託、各国の年金基金など)を代表して、各企業の環境情報の開示を求めている組織と認識するべきである。CDPが発足する前は、機関投資家は各社が発効する環境報告書などを一つ一つ精査して、各社の気候変動対策の状況を調べるしかなかった。さらに環境報告書には統一されたフォーマットがあるわけではなかったので、企業を比較して優劣をつけることができなかった。ESG投資が活発になった昨今、投資家はPER(株価収益率)やROE(自己資本収益率)のように、同業他社を環境の視点で比較できる指標を求めていたのである。

 CDPは企業に対し統一された質問表を送付し、同じ基準に従って評価を行うため、回答結果を比較することが容易である。投資家は毎年CDPから発効されるレポートを見れば、環境報告書を見るまでもなく、何百という企業の気候変動対策の状況を一覧化して比較検討することができる。気候変動分野において最も信頼されている指標がCDPであるといっても過言ではない。例えば、CDPの評価上位(評価A)企業によって構成される「STOXX ® GLOBAL CLIMATE CHANGE LEADERS INDEX」によれば、このインデックスを構成する気候変動リーダー企業の株価上昇は通常銘柄と比較して26%高いという結果が出ている。

2017年CDP最高評価(Aリスト)入りした日本企業。「CDP 気候変動 レポート 2017: 日本版」(2017年10月)を基に筆者作成
CDP Aリスト企業の国別比率 出典:STOXX ® GLOBAL CLIMATE CHANGE LEADERS INDEX (https://www.stoxx.com/document/Bookmarks/CurrentFactsheets/SXCCLEG.pdf)
CDP Aリストのパフォーマンス インデックス別の年間推移 出典:STOXX ® GLOBAL CLIMATE CHANGE LEADERS INDEX ( https://www.stoxx.com/document/Bookmarks/CurrentFactsheets/SXCCLEG.pdf )

 海外機関投資家の日本株式保有率は、1990年は5%程度だったのが、現在では30%を超えている。毎年環境報告書の作成に膨大なコストをかけているのなら、その一部でもCDPの高評価を得る活動に回してみてはいかがだろうか。

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