供給力kWの場合には、需給が逼迫(予備率が低下)した時点で供給力を供出することが重要であるため、発動タイミングが明確である。一方、kWhの場合には今日の燃料節約が明日(それ以降)にも効果をもたらすことから、供出タイミングの自由度が高い(根拠が明確ではない)という特徴がある。
このためkWh公募により調達した電源等の市場供出方法については、あらかじめ一定のルールを定める必要がある。
kWh公募においても、kWh提供事業者はJEPX等への供出により収益を上げることが出来ることから、当該収益は原則、kWh公募実施主体(一般送配電事業者)に還元することが適切である。この観点からはkWh市場供出は、市場価格がより高いときに行われることが望ましいと言える。
このため昨冬は、JEPXへの売り入札価格は、一般的なLNGの限界費用(10円/kWh)以上とすることを原則とした。さらに、市場価格が相対的に高いときに市場供出するインセンティブを付与するため、収入の10%をkWh提供事業者が得られることとした(90%を一般送配電事業者に還元)。
これらの仕組みにより、昨冬kWh公募の実質的な負担額は約64億円(落札総額の42%)に抑制することが可能となった。
ただしkWh提供事業者のJEPX入札行動を確認すると、必ずしも市場価格が高いコマで売り入札されているわけではないことが明らかとなった。
図2の事業者Aの場合、発電機の稼働を計画していなかった土日祝日を活用し、追加kWhを供出していたため、相対的に安価な約定価格となった。
当該発電機が平日にはフル稼働しているならば、実質的にこれ以上の調整余地は無く、インセンティブ付与で状況が改善するものではないと考えられる。
図3の事業者Bの場合、契約供出量が多いため、恣意性排除と計画的に市場供出する観点から、契約対象期間を通じて均等に売り入札を行っていた。
これも一見すると安価な時間帯にも無駄に売り入札しているように見えるが、安価な時間帯を避けていては契約量供出を達成できないならば、これ自体は不可避な行動であると思われる。
資源エネルギー庁では、2022年度夏季kWh公募に向けては、現在のLNG市場価格を元にした価格、例えば18円/kWh以上を原則とすることや、kWh提供事業者のインセンティブを一律に10%ではなく、5%〜20%の範囲で変動させることを提案している。
しかしながら事業者AやBは、インセンティブにより自社の入札行動を変更する余地がほとんど無いと思われる。
もしどうしても、インセンティブによる入札行動変容を優先させたいならば、kWh公募応札時点の条件として、発電機の稼働調整余力が充分にあること(つまり設備利用率が充分に低いこと)を確認する必要があると考えられる。
ただしこれは、需給逼迫が予想される高需要期には、矛盾した要請であると思われる。
今夏のkWh公募は以下のスケジュールで進める案が示されているが、通常でも燃料調達には2カ月程度を要すると言われており、追加調達された燃料がどのタイミングから有効利用されるかは不明である。
また、追加調達燃料を用いたkWh単価が公募の結果として明らかになるため、市場には一定のインパクトを与えるものと予想される。
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