太陽光発電の「スマート保安」定着に必要な改革と、経産省が公表したKPIの考え方法令違反を防ぐ太陽光発電の保安ポイント(6)(3/3 ページ)

» 2022年08月09日 07時00分 公開
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経産省が公表したスマート保安のKPIの考え方

 2022年4月25日に、第4回電力安全部会で電気保安分野におけるスマート保安導入に係る進捗状況のフォローアップが開催され、資料が後日公表されました

 資料は、「1.アクションプラン/取組内容」「2.規制の見直し/事例の横展開」「3.技術実証・導入支援、表彰制度」「4.KPIの設定」で構成されています。

 特筆すべき点は、太陽光発電におけるスマート保安技術の導入に、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)が具体的に設定されたことです。KPIは「保安力と生産性向上」の目標(KGI)に達成するための各プロセス「課題解決」が、適切に実行されているか定量的に評価する指標です。

 今回、太陽光発電については、スマート保安技術の導入KPIとして「1.点検・計測結果の電子保存(タブレット使用・二次活用も含む」「2.空中ドローンによる目視代替・画像データの取得」「将来:遠隔での設備異常検知時の発報等の高度化」の3点が設定されました。なお、「1.」については2021年時点での導入率は22%、「2.」については5%となっており、経産省ではこれを2030年時点までにそれぞれ30%と21%まで高めたい考えです。

出典:経済産業省2022年4月25日「電気保安分野におけるスマート保安導入に係る進捗状況のフォローアップについて」

 公表された他の資料やこのKPIをみて、われわれの業界の現状と、今後の理想とされるスマート保安=デジタル社会との間には、非常に大きな距離があると感じました。われわれの業界は、企業規模に関係なく、紙と印鑑を必要とする紙の報告書が一般的であり、かつ紙の報告書が何も問題視されていないのが現実です。

 一方、経済産業省としてはデジタル化による生産性の向上、デジタル社会への対応と、年々蓄積されるデータを活用し、産業の競争力を強化したい意思が見受けられます。私は2025年のスマート保安本格普及に合わせて、KPIに関連する法令やルールなどが整備されていくものと推測しています。

データの二次活用が特に重要なポイントに

 私は、今回公表されたKPIのうち、1つ目の「KPIの点検・計測結果の電子保存(タブレット使用・二次活用も含む)」における「二次活用」が重要なポイントだと考えています。

 その理由は、二次活用が発電所の重大な事故を事前に防ぐ、予知保全の実現につながると考えるからです。われわれが発電所の精密点検を実施すると、必ず何ならかの不具合、軽微な故障、不具合・故障の手前などの「事象(インシデント)」が必ず発見されます。私はこのインシデントが積み重なって重大な「事故(アクシデント)」につながると考えています。

インシデントの例

  • 架台、杭、ケーブルラックやエンクロージャーなどのサビ
  • ボルトナットやケーブルラックの緩み、サビマーキングの消失
  • ケーブル結束材の破損とケーブルの擦れ
  • 雑草や樹木の影、雑草の植生変化
  • 太陽電池モジュールの表面やパワコンのフィルターの汚れ
  • 架台やフェンスの傾きや歪み
  • 軽微な土砂流出の形跡
  • 動物侵入の形跡
  • 絶縁抵抗測定値の悪化傾向
  • IR検査(サーモグラフィ)によるホットスポットの発見

 私は事故の発生についての経験則である「ハインリッヒの法則」をヒントに、図表のように太陽光版ハインリッヒ法則を提唱し、インシデントを減らす活動と早く是正する活動が事故を減らすと考えています。この活動を積極的に行うことにより、保険負担額が増大するなか、費用負担の削減(軽微な状態で修理)につながり、かつスマート保安の重要骨格である予知保全の実現につながると考えています。

太陽光発電版ハインリッヒの法則(筆者作図)

 では具体的にどのようなインシデントを管理(データの2次活用)すべきでしょうか。

 インシデントは、「点検時」と「遠隔監視装置のアラート発報」から発見されます。この発見から是正完了までのプロセスをデジタル化(電子保存・3次活用含む)し、関係者との共有化と是正完了までの期間を短縮することが重要(=管理上の指標になる)だと考えています。

 この結果、事故は減り、太陽光発電は安全・安心な主力電源として認められる存在になると信じています。

 今後、スマート保安のKPIについてさらに議論が進み法令化や技術開発が進むと思われます。この点を注目し、2025年に向けて読者の方が着々と準備を進め、良き発電事業者、良きO&M事業者になられることを期待しております。約半年間、私の記事を読んでいただきまして誠にありがとうございました。

著者プロフィール

増田幹弘(マスダ ミキヒロ)
野原ホールディングス株式会社 経営企画部 再生エネルギープロジェクト室長
太陽光発電評価技術者、緑の安全管理士、「東京都農薬指導管理士」

大阪出身、近畿大学卒業。1999年、私費にて参加したエコに関する研究会にて、電気を庭に取り付けた太陽光発電と自動車の大型バッテリーから、給湯は太陽熱を利用するなどの、今でいうゼロエネルギー住宅(奈良県)を視察し感銘を受ける。自宅をオール電化にし屋根には発電システムを取り付け、自宅エネルギー消費データを2年間記録、上記研究会にて発表。その後も省エネ、省資源についての研究を深め、建材の開発、リサイクルシステム、工場のエネルギー消費削減に大きく貢献。

2009年、野原産業(現 野原ホールディングス)に入社。2013年、事業開発部において八ヶ岳研修所の遊休地活用事業として太陽光発電プロジェクトを主幹。現在は、太陽光発電に関わる新事業として、第三者の視点からの太陽光発電設備の保守・点検(O&M)サービス「SUN SUN GUARD 20」を展開。豊富な知識と多様な事例、経験から、太陽光発電事業者向けセミナーにて講師も務める。


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