電力の安定供給と経済性を両立、kWhとΔkWを同時約定させる「同時市場」を導入へエネルギー管理(1/5 ページ)

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、電力の安定供給と経済性の両立を実現できる、新たな電力システムの在り方が模索されている。政府ではその方策の一つとして、kWhとΔkWを同時に約定させる新市場の導入を検討中だ。

» 2023年02月13日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 電力システムにおいて、エネルギーの「S+3E」(安全+安定供給、経済性、環境性)は最も基礎となる考え方であり、これらのバランスの取れた同時達成が求められる。

 2050年カーボンニュートラル実現を大前提として、その移行期となる現在、どのようにして安定供給や経済性の最大限の達成を図るか、電力システムの在り方が根本から見直しされつつある。

 このため、資源エネルギー庁は「卸電力市場、需給調整市場及び系統運用の在り方勉強会」や、その後継となる「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」において、新たなコンセプトやその具体的な仕組み等について検討を進めてきた。

 作業部会では、これまで主に燃料確保の在り方や新市場(卸取引・需給調整)について検討を深めてきたが、本稿では新市場について報告することとしたい。なお勉強会や作業部会では、「電力システムの目指すべき姿」として、

日本全国として再エネの最大限の導入により再エネの市場統合が進み、需給運用上の不確実性が拡大する中でも、安定的かつ持続可能な形で日本全国で最適運用が可能な需給運用・市場システム

と示されている。

現行の市場システムの課題

 現在日本では、バランシンググループ(BG)を基本として、電力卸取引所(kWhを取引するスポット市場)と、需給調整市場(送配電事業者がΔkWを調達する市場)が別々に、かつ異なる時間軸で存在している。

 これは、安定供給の観点や経済性の観点(メリットオーダー実現等)から幾つかの課題があることが指摘されている。

表1.現行の市場システムの主な課題 出所:あるべき市場作業部会

 これらの課題を解決する方法として、kWhとΔkWを同時に約定させる1つの市場を新たに創設することが提案されている。

 このような「同時市場(同時約定市場)」はすでにPJM等、米国の複数の地域で導入されており、kWhとΔkWが同時最適化されている。

 米国の同時市場では、発電事業者が3つの電源諸元(①ユニット起動費、②最低出力コスト、③限界費用カーブ)を市場に登録するため、「Three-Part Offer方式」と呼ばれている。

 後述するように、日本でも原則同様に「Three-Part Offer方式」(以下、3-Part方式と呼ぶ)を用いることが予定されている。

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