実態調査で見えた電力卸取引の現状、契約期間や販売メニューの傾向が明らかに法制度・規制(4/5 ページ)

» 2023年06月15日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

小売電気事業者の卸取引の全体像

 アンケート調査では、まず小売電気事業者によるバランシンググループ(BG)の組成について尋ねている。アンケート有効回答(200者)の半数程度が、子BG(仮想BG含む。以下同様)の形態で小売事業を行っており、親BGに電源調達の全てもしくは一部を委託している子BGは67%に上る。

 これを踏まえ、小売電気事業者の電源調達先(2021年度実績)をkWhベースで表したものが図6である。図6の左円グラフは各社の回答を単純平均したもの、右円グラフは各社の2021年度需要実績(kWhベース)で加重平均したものである。(有効回答数=188)

図6.小売電気事業者の電源調達先 出所:電力・ガス基本政策小委員会

 左円グラフでは、新電力の多くが親BGから電源調達している回答と整合的であるが、スポット市場依存度は2割程度に留まっていることが分かる。また旧一電小売部門の多くが、社内・グループ内発電事業者から電源調達しているため、加重平均した右円グラフでは、発電事業者からの調達率が高く表れている。

 小売電気事業者の電源調達(kWhベース。2021年度実績)について、契約期間の実績と希望ポートフォリオを比較したものを、各社の2021年度需要実績(kWhベース)で加重平均した結果が図7である。加重平均では旧一電のウエイトが高く表れるので、現状(実績)では10年以上の契約期間が約28%と高いものの、今後の希望としては、10年以上の長期契約を減らしたい意向が読み取れる。ただし後述する図8のように、10年以上の長期契約に対するニーズも多く存在する。

図7.電源調達の契約期間 実績と希望 出所:電力・ガス基本政策小委員会

長期契約の有無とニーズ

 発電事業者との長期契約の実績の有無について、その契約期間ごとの回答結果(複数回答可)が図8である。図8では参考として、短期契約の有無についても表示している。

 また、図8の折れ線(菱形マーカー)は、発電事業者と長期契約を結ぶニーズの有無について尋ねたものであり、どの契約期間の長さにおいても、ニーズは実績を大きく上回る結果となった。図3と図8から、発電事業者および小売電気事業者のいずれも、現状よりも長期契約を増やしたいと考えていることが明らかとなった。

図8.発電事業者との長期契約等の実績有無 出典:電力・ガス基本政策小委員会を基に筆者作成

 長期契約について小売電気事業者からは、

  • 長期契約においては発電事業者と小売電気事業者との間でリスクの取り方に係る交渉が必須であり、一律に条件を定めるオークション形式等による取り引きは難しい
  • 小売供給契約は1年が基本なので、(将来の自社)需要が読みづらい
  • カーボンニュートラルによる火力退場の動きを受け、火力発電については、長期契約に踏み出しづらくなっている

 などの意見が寄せられており、長期契約の締結には一定の困難が伴うことが示されている。

転売禁止条項等に対する評価

 小売電気事業者に対するアンケートでは、卸供給契約における転売禁止や購入可能量上限、エリア外への供給制限の実績そのものではなく、これらに対する「評価」を尋ねている。

 例えば購入上限の設定は、買い手(小売事業者)の調達量を既存需要の範囲内に留めることとなり、新規需要獲得の制限になる可能性があるため、競争制限的効果を持つものである。

図9.卸供給契約における転売禁止条項等に対する評価 出典:電力・ガス基本政策小委員会を基に筆者作成

 図9では、購入上限を設けることを「問題ない」と考える小売事業者が65%と、多数を占めることが明らかとなった。これは、一部の大手新電力が、旧一電(発電事業者)の卸供給を先取りしたため、多くの中小新電力は、十分な卸供給を受けられなかったことが一因と考えられる。

 また、無制限に卸供給を受けられることは、小売電気事業者が自社電源を新設・保有(※SPCへの出資等を含む)するインセンティブを削ぐ面もあるため、長期的な得失についても検討を深めることが求められる。

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