営農型太陽光発電を含む太陽光発電における農地利用については、PV OUTLOOKのp.55とp.73以降のセクションで言及がなされています。ただ、残念ながらその内容は従来型の「発電事業者による農地利用」という路線から進歩しておらず、その点は非常に期待外れな内容になっています。
例えば、下記のページでは「地域との共生・共創」とうたわれていますが、右下に描かれている農業分野では「発電に伴う地域課題解決」として荒廃農地の再生及びそれに伴う雇用創出とあり、「農業・農村振興における太陽光発電の利用」といった目線ではなく、あくまでも「太陽光発電の適地としての農地利用に伴う地域課題解決」という捉え方になっていると感じます。共生・共創といいながら、農業側のニーズをくみ取ったものになっているかどうかが疑問です。
そして、「10.DX+GXで、食料・エネルギー安全保障の同時達成」と題したセクションでは、下記のように食料とエネルギーの自給率向上・安定供給がうたわれていますが、各項目において資料のつぎはぎ、寄せ集め感が否めません。また、営農型太陽光発電を大きく取り上げていますが、導入見通しの「農業関連」として2050年に44.3GWacとなっている荒廃農地について、営農型太陽光発電によって農地としての再生利用をするのか、あるいは完全転用して野立てにするのか、その比率や農業・農村貢献についての具体策への言及もありません。
また、p.75では「営農型太陽光発電の類型と2050年次世代農業のイメージ」と描かれていますが、ページ上部の引用資料では原資料においてより重要な部分である「Traditional utility-scale configurations」が丸ごと切り取られてしまっています。切り取られた部分には、野立ての太陽光発電における敷地内での農業生産・家畜放牧・自然生態系の再生といった事例が並んでおり、その上で「Agrivoltaics(日本で言う営農型太陽光発電)」としてまとめられているのですが、こうした本来JPEAがしっかりと向き合うべき部分を削除してしまっています。このページを見ただけでも、今回のPV OUTLOOK策定に際して営農型太陽光発電を含む「農地・農業と太陽光発電」に対する詳細な検討や議論が行われていないことだけでなく、そもそもの営農型太陽光発電の意義をJPEAとして理解できていないという実態も露呈してしまっています。
このセクションの最後には下記のようなまとめがありますが、「DX+GXで、食料安全保障とエネルギー安全保障を同時に達成する“夢のある農業・誇れる農業“をデザインし、若者に示していくことが、国・関係省庁、関係事業者の役割ではないか」とするのであれば、JPEAとして、国内の太陽光発電産業としての営農型太陽光発電や荒廃農地利用を通じて、農業・農村と向き合うポリシーやビジョンを同時に示すべきでしょう。
例えば先ほどのAgrivoltaicsの類型化の中でも、「メガソーラーの敷地を農地として活用していく」ことがはっきりと示されており、それであれば太陽光発電事業者が積極的に国内農業の課題に関わることが出来ます。昨今、営農型太陽光発電によって太陽光発電事業を契機に農業参入するプレーヤーが増加しています。また、荒廃農地を野立てとして活用する際にも、最大限の農業生産再開や生態系保全への貢献を業界のポリシーとしてうたうことも出来るはずです。そうして太陽光発電業界として農地における太陽光発電設置を拡大すると同時に、食料とエネルギーの自給率向上・安定供給のため、農業生産にも一体となってコミットしていくことを示せば、今回のPV OUTLOOKの大きな目玉になったでしょう。
全体として、新しいPV OUTLOOKでは少なくとも営農型太陽光発電を含む農地利用について取って付けたような感が否めず、また本来、太陽光発電業界として向き合うべきポイントも大きく落としていることが明らかな内容となっています。今回は「2024年版ver.1」とされていますので、その早急なアップデートに期待したいと思います。
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