連載
» 2009年03月18日 11時00分 公開

感動のイルカ:金の切れ目が縁の切れ目 (1/2)

ビジネス小説「奇跡の無名人」シリーズ第3弾の「感動のイルカ」が始まります。主人公のモデルはアクティブトランスポートの猪股浩行CEO。彼は、「アクティブ感動引越センター」という引越しサービスを提供しています。なぜ、引越しで感動なのでしょうか? その謎にこの連載を通じて迫って行きます。

[森川滋之,ITmedia]

筆者から

 お久しぶりです。森川滋之です。

 ビジネス小説「奇跡の無名人」シリーズ第3弾は、「感動のイルカ」と題しまして、アクティブトランスポートの代表取締役CEOである猪股浩行さんの実話に基づく物語をお伝えします。

 アクティブトランスポートは運送業を営んでおり、「アクティブ感動引越センター」という引越しサービスで顧客満足度の高いサービスを提供している会社です。例によって、実話に基づいていますが、登場人物や団体はすべてぼくの頭でこしらえたものです。なぜ、引越しで感動なのか? 不思議に思った方もいらっしゃると思います。ぼくも、猪股社長と出会うまでは、引越しなんか安ければいいじゃんと思っていました。そして、それは大きな勘違いでした。

 お客様に満足を与えるというのはどういうことで、それがどうしてビジネスにつながるのか。この物語を通じて、本当に幸せな仕事とは何かが伝わればいいなあと願っています。


『奇跡の営業所』が発売になりました

 Biz.IDで好評だった「奇跡の無名人たち 震えるひざを押さえつけ」単行本『奇跡の営業所』(きこ書房刊)になりました。全体的に読みやすくリライトし、解説編は大幅に加筆しています。

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 また、出版を記念して、吉田和人のモデルである吉見範一氏と著者がトークライブを開催します。皆さまのご参加をお待ちしております。

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 「やっぱり、金なんだよなあ、世の中」

 1994年の夏だった。都心に近い、一人暮らしにはぜいたくなマンションの一室で、25歳の猪狩浩(いかり・ひろし)は、投げやりになっていた。もうすぐこのマンションも引き払わないといけない。

 元々何も持っていなかった身だ。ぜいたくな暮らしができなくなるのは、たいした痛手ではない。浩には痛手だったのは、心が通じ合っていたと思っていた部下たちが、金の切れ目が縁の切れ目と誰も寄ってこなくなったことだ。

 フルコミッション(完全歩合制)のOA機器販売をはじめて5年。20歳の頃の年収が1千数百万円。若者が道を間違えるには十分な収入である。もちろんすべての若者が金があればおかしくなるわけではない。ただバブルまっさかりの頃に20歳で使いきれないほどの金を稼いでいたということと、これからおいおい語っていくであろう浩の生い立ちを考え合わせれば、浩が金を遣う楽しさに目覚めてしまったことを責める気にはならないはずだ。

 バブルは3年前に弾けてしまったが、それでも浩のいまの収入は、普通のサラリーマンよりは多かった。彼は営業マンとしてそれほど優秀だったのだ。バブル真っ盛りの頃は、オーダーメードのダブルのスーツをびしっと着こなし、高級外車を乗り回し、10人ほどいた部下たちを銀座に連れて行って豪遊させていた。

 浩自体は、遊びが別に楽しかったわけではない。部下という仲間たちと遊ぶのが楽しかっただけで、銀座のクラブでなくても居酒屋でも良かった。しかし、元来人付き合いが得意ではなかった浩には、見栄を張らないと付き合ってもらえないんじゃないかという恐怖心があったのだった。

 このような人付き合いの仕方は、バブルが弾けても改まらず、浩の1千万円を超えていた貯金は、いつの間にか借金になり、借金の額が増えて以前のような遊びができなくなるにつれて、周囲の人間は1人減り、2人減りとだんだん減っていった。

 とうとう高級外車を手放し、マンションも引き払うという段になって、あれだけ慕われていたと思っていた部下たちは1人もいなくなってしまった。

 浩は、人付き合いも、今の仕事もつくづくいやになってしまった。気持ちがすさんでいた。そのせいで仕事でも失敗するようになった。会社からは、オブラートにつつんだ退職勧告を受けていた。今までの功績もあるから、自主退職するなら、退職金も出そうという感じのことを言われたのだった。

 管理職になっていたので、今ではフルコミッションではなく、月50万円の基本給があった。会社にしがみついて節約さえすれば、それで十分暮らせる給料ではある。しかし、その頃の浩は金銭感覚がおかしくなっていた。50万円ぽっち何をやっても稼げるという感覚だった。その程度の金額ならバカらしいと思った。それで辞めることにした。

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