税収は2倍以上なのに消費者大喜び――「レシート宝くじ」の秘密を台湾・財務部に聞いてみた樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

1951年に5100万元でしたが、1952年には1億600万元になりました――。これは、台湾の営業税が2倍になった話である。実は宝くじ代わりになるレシートがポイントだ。このため、税収が2倍になったのに消費者は大喜びだとか。

» 2010年03月31日 11時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]
統一発票。左が表面で、右が裏面

 2009年12月に掲載した台湾「レシート宝くじ」は大きな反響があった。

 台湾では、何かを購入した時のレシートの用紙や形式、番号を国が定めていて、レシートにはそれぞれ固有の番号を印刷しており、「統一発票」と呼ぶ。統一発票に書かれた番号が宝くじになっていて、2カ月に1回抽選するわけだ。この抽選はテレビでも中継する。

 当たれば、特等200万元(約550万円)から6等の200元(約550円)までの賞金がもらえる。多くの家庭では、持ち寄ったレシートの番号を家族全員で調べて「当たったー、6等3枚」なんてやっているのである。

 このレシート宝くじを詳細に調べてみようと、大阪経済大学の樋口克次教授(経営学部)と一緒に台湾に向かった。そこで台北の友人に頼んで、財政部(日本の財務省に該当)にアポイントを取ってもらったところ、運良く台北で財政部賦税署に話を聞けたのでご紹介しよう。

台北の財政部賦税署

1951年は5100万元、1952年は1億600万元

樋口 いつ、誰が発明したのでしょうか。

財政部 1950年の任顕群省長(注:当時、財政部は財務省だった)が考え出し、1951年に始まりました。台湾ではレシートを発行する習慣がなく、各事業主は自主申告で売り上げを申告していました。このため、営業税(日本の消費税に相当)の脱税が多かったのです。そこで、レシートに通し番号をつけて宝くじにすることで、レシートを発行することが当り前になり、営業税の脱税も激減しました。

樋口 発行するべき企業が発行しなければどうなりますか。

財政部 1年に3回違反すると営業停止。ただし、毎月の売り上げが20万元(約55万円)以下の商店では統一発票の発行は不要です。これらの商店では、財政部が発行する黄色いシールを店の表に貼っています。それと非常に忙しいタクシーや、お昼の食堂なども発行が不要です。

樋口 税収の変化は。

財政部 営業税の収入は1951年には5100万元でしたが、統一発票が行き届いた1952年には1億600万元。ほぼ倍増しました。

樋口 宝くじの当選金額と当選率は、税収からの支払いですが、どのように決定するのでしょうか。

財政部 当選金額は税収の3%で、現在特等は200万元(約550万円)ほどです。隔月で年に6回、1回の抽選で2カ月分の当選を決めます。当たりくじの換金は当選発表日から3カ月以内です。1万元以下の小額当選は全国の主要なコンビニ郵便局や指定の銀行で即時に換金できます。1万元以上の当選はいったん預かって、発票の企業が持つ原紙と照合する仕組みになっています。これは不正防止にも役立ちます。

樋口 当選金以外のコストはどのくらい掛りますか。

財政部 事務費用、印刷費用、輸送費用、換金手数料、当選決定ほか諸費用が掛りますが、それらは3%の金額に含まれています。

樋口 換金されない当たりの賞金はどうなりますか。

財政部 換金されない賞金は国に戻すことなく、その年度内の当選支払い額に回します。

樋口 大きなコンビニなどは、独自の統一発票を作れるのですね。

財政部 以前はできなかったのですが、現在は毎月5万枚以上のレシートを出すコンビニや大型の商店では、指定の印刷会社で独自ロゴや宣伝の入った統一発票のレシートを作成できます。レシート用紙のうち特定の部分の印刷は自由になっています。この独自レシートを持つお店はステータスとなりますので増えています。

家族の団らんや寄付に

樋口 市民の反応はいかがでしたか。

財政部 好意的です。買い物をする時にレシートを要求する人が急増しました。発票は、購入金額に関わらず、同じ扱いを受けます。10元でも1000元でも同じ1枚のレシートで、どちらも200万元が当たる可能性があるのです。すなわち小さな買い物をコツコツとしている人も、ドカンと大きな買い物をする人も同じように当たる可能性があります。本来まとめ買いするはずだった買い物を細かく小額に分ける人もいるようですが、大勢には影響を与えません。

 会社の中では、他人のレシートを購入する人、例えば1枚1元(2.7円ほど)を支払って集めている人がたくさんいます。ちなみに財政部のこのオフィスでも5人が統一発票に当たった経験があります。もちろん毎回小額ですが。しかし、それが数十年続くと、けっこう大きいですよね。それに家族一緒にレシートを調べるのが本当に楽しみなのです。こちらの効果も大きいのです。

統一発票を受け付ける寄付箱

 それから、このレシートは寄付もできます。お金を直接寄付するのでなく、(一定の割合で)お金になる可能性のあるレシートを寄付しているわけです。ある難病救済の会では、この統一発票の寄付だけで年間に日本円にして250万円程度を集めています。決して馬鹿にならない金額です。ただ膨大な統一発票を調べる手間は、ボランティアが行います。

樋口 一般の宝くじとの関係はいかがですか。

財政部 宝くじの制度は独自にあります。はるかに大きな当選金額を出しており、この統一発票とダブることはありません。また消費者側もそうした考えを持っていません。

樋口 ありがとうございました。

今回の教訓

 レシートで家族団らん――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら



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