連載
» 2012年06月20日 11時00分 UPDATE

アイデア発想実践記:仲直りを手助け――マンダラートで考えた幸せになれるスマホアプリ

「ちょっと幸せになれるスマホアプリ」のテーマで考えたアイデア。参加者の3人が選んだベストアイデアは何だったでしょう?

[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]

 世の中にあるさまざまな発想メソッドを、実際に試して実験、検証していく本企画。第10回は「マンダラート法」です。今回も仮想のお題を用意し、メソッドに従って検証。その結果を、監修役であるアイデアプラント代表の石井力重さんに評価してもらいます。

 マンダラート法は、デザイナーの今泉浩晃さんが開発したアイデア思考法です。マンダラートは、マンダラを使う技術(アート)ということで付けられた造語。マンダラとは9つの正方形のマスで作られた形をしたもので、それを使うための技術がマンダラートです。

 前回「ちょっと幸せになれるスマホアプリを考えてみた」では、1回目のアイデア出しを行いました。今回は2回目のアイデア出しとその結果、最後に石井さんのコメントを紹介します。

shk_naka1000.jpg 今回使った3×3マスの自作マンダラート用紙

石井力重(いしい・りきえ)さんプロフィール

st_ishiirikie.jpg 石井さん近影

 1973年、千葉県生まれ。東北大学大学院理学研究科修士課程卒業。技術系商社から東北大学大学院博士課程(MOT専攻)、独立行政法人のフェローを経て、2009年4月にアイデアプラントを設立。現在は「ブレスター」「智慧カード」などアイデア創出支援ツールの企画開発、企業・団体向けの新事業・新製品開発支援、さまざまな創造技法を紹介するワークショップなど、多彩な活動を展開している。2011年6月には、東北地方のビジネス活性化と震災復興を目指す「Fandroid EAST JAPAN」を設立、同理事長に就任。仙台を拠点に、Androidアプリ開発技術者の育成と能力向上、アプリ関連ビジネスの活性化に尽力している。Webサイトは「石井力重の活動報告」


アイデア出しは2回目が勝負

 大抵の場合において、1回目のトライで珠玉のアイデアは生まれません。悩んで、悶えて、壁にぶつかって、少し自己嫌悪におちいって、髪をかきむしったその先に納得できるアイデアは落ちていたりするものです。

 あるいは、一見良さそうなアイデアが1回目のセッションで出たと思っても、それはまだ意識の表面をすくってきただけであることがこれまでの経験で分かっています。脳を絞り、ある程度苦しまないと(おかしな表現ですが)、自分でも驚くようなアイデアは浮かび上がって来ません。

 ということで、2回目のセッションです。面白いことに、1回目よりもたくさんアイデアが出てきました。

それぞれが考える「幸せ」のキーワードから発想

shk_naka1101.jpg 発想後は、アイデア発表タイプ。鷹木さんは「野球」に関連したアイデアをピッチャーのまねをしながら説明しました

 今回のテーマは「ちょっと幸せになれるスマートフォンアプリを考える」。メンバーの誠 Biz.ID鷹木編集長、上口さん、そして中山の3人は、1回目のセッションで出したアイデアから、さらに深堀する形で発想していきました。

 例えば鷹木さんの場合は「食べ物」「スポーツ」、上口さんは「見たい映像を出してくれる」「だいず えだまめ まめもやし(※子供のころ好きだった本のタイトル)」、中山の場合は1回目で出した「毎日音が変わるアラーム」などのアイデアを掘り下げていきました。

 そして、最終的に生まれたアイデアはこちらです。

 まずは鷹木さんアイデア。

アプリ名 どんなアプリ?
家飲みアプリ 家で1人飲みするとき、退屈しないよう友人とアプリ画面を通じておしゃべりや乾杯ができる。おつまみのデリバリーを注文できたり、エンドレスになりやすい家飲みを終わらせてくれるアラーム機能があったりする
野球の勝負球予想アプリ 3ボール2ストライクからピッチャーの決め球を予想して遊ぶアプリ。コアな野球ファン向け

 続いては上口さんアイデア。

アプリ名 どんなアプリ?
だいず えだまめ まめもやしアプリ だいず えだまめ まめもやしが育成していくさまを、観察できるアプリ。食育になるし、農家の人に感謝できる
見たい映像を出してくれるアプリ 子供のころや学生時代の記録をアルバムとして集約しておけるカタログアプリ

 最後は中山のアイデアです。

アプリ名 どんなアプリ?
毎日アラーム音が変わる目覚ましアプリ アラーム音に飽きてしまったり、慣れてしまわないよう、ランダムな音で毎朝起こしてくれる(例:機関銃、道路工事、断末魔、爆発音、北斗の拳、火災報知機など)
仲直りアプリ ケンカをしたカップル(とか夫婦)が、仲直りをするための支援ツール。ごめんねメールをポチポチと入力するのは気恥ずかしいというか、「いい年した男がなに女々しいメール書いてんだよ!」って自己ツッコミする人もいるだろう。そんな感情のハードルのせいで、仲直りのきっかけを失う人は多いと予想。そこで、相手の名前を入力するだけで、心に響くごめんねメールを瞬時にジェネレートする
遺言アプリ 友人ごとにさよならメッセージを動画で撮影しておき、自分の死後、しばらく経った後に送信。あの世からのメッセージっぽさを演出する

ベストアイデアは“仲直りアプリ”

 たくさん出そろったアイデアの中で、最も実現性が高そうなグッドアイデアに選ばれたのが「仲直りアプリ」でした。ただ、受け手にテンプレートだと見破られたときは、怒りに油を注ぐことになるもろ刃の剣です……。

テーマはゆるく設定したほうがいいかも

 マンダラート法は、用紙の中心にテーマを書いて発想していきます。今回3人で試してみて思ったのは、最初に設定するテーマは、ややユルめ(or軽い感じ)にするのがよいと思いました。

 例えば「世界をあっと言わせる、画期的でスーパークールなスマホアプリを考える」と書くと、重くないですか? これでは、気ばかり焦って初めの一歩が踏み出せません。

 ですので、もっとユルく「ちょっぴり幸せになれるスマホアプリって?」くらいにハードルを下げて取り組む方が、スタートダッシュをかけやすいと思います。アイデア発想のキックオフで大事なのは、隙のない壮大なテーマではなく、参加者が「まずはやってみるか」「私でもできそうな気がする」とリラックスできる雰囲気作りです。

 今回はそれを意識してあえてユルめに表現してみたのですが、結果うまく行ったような気がします。

 以下、参加者の感想コメントです。


shk_naka.jpg 中山

「幸せ」をテーマにアイデア出しをしていたつもりなのに、時々「遺言」とか「アラーム音」といった無関係な方向に進んでしまいました。考えている途中で、「あ、オレ思い切りズレてる」と自覚はできていたのですが、アイデアのしっぽ(的なもの)をつかみかけていた気がしたのと、ここでやめたらもったいない気分がしました。そんなわけで、そのまま突っ走ってしまいました。


shk_taka.jpg 鷹木

「マンダラート、むずかしッ!」というのがやってみた印象。いろんなアイデアを浮かべて、その1つ1つを深めていく――という方法論は分かるんですけど、全然深まらない。玉ねぎの薄皮をむくが如く、アイデアを出しても中身がない……。小一時間でやったのですが、もしかしたら時間が足りなかったのかなあ。半日ぐらい費やしてひたすらマンダラしてみたいっす!


shk_kami.jpg 上口

今回のマンダラート法に限らず、全体を通して1つのアイデアを凝ろうとしすぎてしまったようです。結果なかなかアイデアが出せず、時間がかかってしまうという結果に……。しかし今回のようにスマートフォンアプリという身近なテーマでやると、割と柔軟に考えられた気がします。手法としては、マンダラートのように枠が決まっていて埋めていく方法がやりやすかったです。


 最後に、石井さんの監修コメントです。

石井さんコメント

st_ishiirikie.jpg

 マンダラートは、創造工学の観点からいえば、いわば「発想を引き出すノート記法」の1つです。他に著名なものとしてはマインドマップ、などがあります。表現レベルでは全く違うものですが、発想を引き出す効能面からはその本質は共通しています。連想を広げることを"カキカタ"が促進し、はじめは思いもよらなかったものまで掘り出せたりします。

 自分に合うように、わがままに使うことが発想法には大事です。推奨したい展開の仕方としては、鷹木さんのやり方です。可能であれば、2枚目からさらに1つ選びそれを、さらに展開すると、意外なものもだせるでしょう。スマホアプリは、そのデバイス特性上、PCと違い、机の前をはなれて、日々の行動の中で使われます。多くの成功している良いアプリは、そうした日々の1つ1つの動作をより良い体験にしてくれるもの、という切り口が共通しています(もちろん、それに当てはまらないものもありますが)。

 話をマンダラートに戻すと、その意味では、鷹木さんスタイルで深く掘って行き、見つけた面白い言葉を切り口にして、「その言葉にまつわる行動をより良い体験にしてくれるとしたら、それはどんなアプリだろう」と発想していくと良いでしょう。

 例えば、家飲みアプリは、飲料メーカーが出すならかなり面白いアプリでしょう。アプリのユーザー同士がランダムにコネクトする「立ち飲みエリア」や、お酒開発のチームとつながって美味しい割り方、飲み方を教えてくれる「カウンターエリア」など。リスク、コストもありますが、メーカーはユーザーのリアルな感想が聞けるし、昼夜が逆転するような海外のスタッフであれば勤務時間内での対応もできそうです。

 今回のように複数人でアイデア出しするならば、マンダラートを皆で書き出したあと、メンバーで回してもいいですね。面白そうな切り口に星をつけて戻してもらい、その観点で考えると意外なアイデアを見出せたりします。

 もちろん記事のようにマンダラートに書いたアイデアを紹介しあって、さらに出すのも良い方法。1人ブレスト、みんなでブレスト、1人、みんな……と繰り返すと、ずっとブレストをするよりも、質的に高まることがあるのです。

 後半を読む前は、大豆とアラームのアイデアが面白いと思いました。“生の生命”をひたすら定点カメラで撮っていつでも見たり、長時間撮影することで見られなかった12時間を一気に30秒で見たりしてくれると、面白くて何度も見てしまいそうです。

 生の生命という切り口では、子猫もいいかなと思います。世界中のペットショップの閉店後の二時間を12地点で交代しながらながす、とか。アラームについてこれは実用度が高いですね。ありそうですけど、ないとしたら不思議なくらいですね。あったとしたら、具現化できそうなものを思い付くのは、それだけ良い発想でもあります。アラームの音に順応してしまうのを避け続けられるよい目覚ましです。寝る前に「起きろー」と録音するとサーバに保存し、世界の誰かの目覚ましに届く(自分のところには、何語で届くか分からない)と、ワクワクできそうです。

 いずれにしろ、発想法は実際にやって感じをつかみ、わがままに改良して使うのが良いと私は考えています。クリエイティブな才能を解き放つためには、いわば「左利きの人に右手で書くように矯正しないこと」が肝要である、と。一度はやって見る。で、使いにくいところは改良する、時には、ほぼ我流にしてしまう、それぐらいでいいんです。

 クリエイティブな想像の翼は、誰の中にもあります。現実の荒野を進むための鍛えられた足腰も重要ですが、自分の目標が遠いところであるならば、想像の翼で高く上がることも大事です。本企画の読者が成長の軌道を力強く駆け上がって行く時に、創造技法やこうした実践記事がその一助となれれば、幸甚です。




Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

ピックアップコンテンツ

- PR -

注目のテーマ

マーケット解説

- PR -