Sunとの融合がOracleの本格的なクラウドビジネス参入を加速するOracle OpenWorld 2010 Report

「Oracle OpenWorld 2010」4日目は、再びラリー・エリソン氏が登場して、Oracleのクラウドの優位性と、Sun Microsystemsと融合したことによる効果を力説した。

» 2010年09月24日 15時41分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

 9月22日、「Oracle OpenWorld 2010」キーノートセッションのステージに、再びCEOのラリー・エリソン氏が登壇した。初日同様、登壇前に、念願だったヨットレースのアメリカズ・カップ優勝を振り返るビデオが流された。ビデオの中で「わたしはアメリカを代表できたことを光栄に思う」とエリソン氏は言う。会場には優勝したチームのクルーが参加し、参加者から大きな拍手を浴びていた。

ハードウェアとソフトウェアが融合したからこその優位性

 最初にエリソン氏は、米Appleのスティーブ・ジョブズ氏を引き合いに出し、ハードウェアとソフトウェアが一緒になることで素晴らしいものが生まれるという話をした。「スティーブは親友でもあり、彼のやり方を私はよく見ている。彼はハードウェアとソフトウェアを組み合わせることで良い製品を生み出しており、それがAppleの成功につながっている」とのこと。これは自動車も同様であり、いまや自動車(ハードウェア)を便利に動かすためにさまざまなソフトウェアが使われていると語った。

「クラウドを展開するには箱がいる」ラリー・エリソン氏

 ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたことで生まれた「Oracle Exalogic Elastic Cloud」の上では、salesforce.comも動く。「salesforce.comはDellのサーバを1500台くらい並べて動かしているが、Exalogicなら数百台で済む。Exalogicの方がいいだろう」とエリソン氏。米salesforce.comのCEOであるマーク・ベニオフ氏が、今回のOracle OpenWolrdにて担当したセッションのなかで、「クラウドは箱では動かない」と発言したことを受け、「salesforce.comもDellの箱をたくさん購入している」と切り返した。さらに、「Exalogicならプライベートクラウドでももちろん利用でき、salesforce.comもNetSuiteのアプリケーションも動かすことができる。マークが仮に技術の人間と会話することになれば、やっぱりクラウドを展開するには箱がいるという話になるはずだ」と言い、salesforce.comが箱の数を減らしたいと考えるならExalogicを検討すべきだと指摘した。

 Exadataで採用されている暗号化もハードウェアとソフトウェアを融合しているからこその機能だ。暗号化、複合の機能がハードウェアに組み込まれているのでオーバーヘッドがほとんどないとのこと。これは他社にはまねのできないところであり、このような融合はストレージでも大きな優位性になるという。「ExadataのディスクアレイはEMCよりも5〜10倍速い」とのこと。NetAppならば50倍も速いと自信を見せる。これはデータベースの機能をストレージ側に組み込んでいるからこそ達成できるものであり、EMCなどのストレージベンダーにはできない。「ハードウェアとソフトウェアを一緒にエンジニアリングするからこそこれくらいの違いが生まれる」とエリソン氏は言う。

 また、今回Oracleが発表したExalogicもExadata同様、ハードウェアとソフトウェアを一緒に開発したからこそ生まれたものだと、Sun Microsystemsと融合したことによる効果をあらためて強調した。これは今回発表した独自のLinuxカーネルについても同様だ。OracleはLinuxのビジネスに5年前に参入し、当初はRed Hatとの100%の互換性を保証するところから始まった。この約束は継続するが、ハードウェアとソフトウェアを一緒にしてそのメリットを引き出すことはRed Hatではできない。そのために独自の最適化を施したカーネルを提供することになったのだ。

 「顧客はどちらを選んでもいい」とエリソン氏。ただし、「Oracle Unbreakable Enterprise Kernel」を選び、Oracleのハードウェアと組み合わせれば、フラッシュメモリの読み出し速度は5倍、SSDでも2.5倍、InfiniBandのスループットは3倍、OLTPの処理も1.8倍になるとのこと。Oracleのハードウェア上で「Oracle Database、Oracle Fusion Middleware」の能力を最大限に引き出すには、Unbreakableの方を選ぶべきだと断言する。

 今回は、Exalogic、Exadata、Fusion Applications、SPARCチップ、Javaのロードマップ、MySQL 5.5などこれ以外にも数多くの発表を行った。今後は40億ドル以上の研究開発費を投入して、「ほかのどの企業よりも付加価値の高い製品を提供し続ける」と約束した。そして、今回はこれら技術的な面だけでなく、マネジメント面でも大きな改善がなされたと言い、マーク・ハード氏が社長になったこと、米IBMからジョアン・オルセン氏をクラウドサービスの責任者として迎え入れたこと、さらに一時Oracleから離れハーバード大学で研究を行っていた、かつての技術部門のトップであったチャック・ロズワット氏が再びOracleに戻り、技術面のサポートをすることが伝えられた。

Fusion Applicationsの提供時期をあらためて約束する

 とはいえ、Fusion Applicationsについては、エリソン氏もだいぶ苦労を強いられた。プロジェクトを始めた当初は、まさか完成までに5年もの期間がかかるとは考えていなかったようだ。Fusion Applications開発プロジェクトは、業界標準のミドルウェアの上で大規模なアプリケーションを構築するというもの。Oracle E-Business SuiteにしてもPeople SoftやSiebel、もちろんSAPにしても専用のミドルウェアを利用している。これではなかなか柔軟性を発揮できないし、新しいテクノロジーをすぐに取り入れるのも難しいのだ。

 Fusion Applicationsのもう1つの目的は、単に事務処理の自動化をするのではなく情報を活用できる環境を提供するということ。「単にプロセスを自動化するよりも、情報活用して賢いビジネス判断をした方がより大きなコストメリットが出る」と考えたとエリソン氏は言う。これらを実現するために、予想以上の時間がかかったことになる。

 結果的にはプライベートクラウドでも、パブリッククラウドでもどこでも使えるアプリケーションができあがった。SNSのような最新の技術も取り込め、WebサービスやBPELを使って既存のシステムとも容易に共存、連携できるものに仕上がっているとのこと。「salesforce.comやSAPのBusiness by DesignのようにSaaSでしか使えないものではない。Fusion Applicationsは、同じコードベースでどこでも使える。SaaSで始めてインハウスに移行してもいいし、本社はプライベート、営業拠点はSaaSというようなハイブリッドでも運用できる。ユーザーはこれらを自由に選択できる」とFusion Applicationsの優位性を強調した。

 Fusion Applicationには数百のモジュールがすでにあり、5000以上のデータベース表と1万を超えるタスクフローで構成されている。これらでできている100以上のモジュールが来年には顧客に提供されると、Fusion Applicationsの提供時期についてもあらためて断言した。

日本でExalogicは普及するのか

 エリソン氏の基調講演の後、日本オラクルの代表執行役 社長 最高経営責任者の遠藤隆雄氏に、今回のOracle OpenWorldにおける一連の発表について話を聞いた。遠藤氏は、「今回ラリー(エリソン氏)が、クラウドコンピューティングについて明確にOracleの見解を示したことは大きな意味があるものだ」と言う。そして、日本人にはあまりなじみがないが、クラウドコンピューティングでは「Elastic(伸縮性、柔軟性)」という言葉がキーワードになることが明らかになったと語る。

「日本はそろそろ、SIerに構築から運用まで任せるモデルから抜け出すべき」と語る遠藤隆雄氏

 また、Exalogicのようにクラウドコンピューティングの環境をプリセットして提供できるのは、大きな優位性だとも言う。「Amazonのようなクラウドのプロジェクトは大規模な技術者、投資が必要であり、あれと同じことをプライベートクラウドではやっていられない。その際にはスイッチオンですぐ使えるExalogicのようなものが絶対に必要」と、Oracleは顧客視点に立った製品を提供しているのだと説明する。

 Exalogicはスイッチオンで動くというのは、米国などのように顧客企業がインテグレーション(構築)して運用するモデルではいいが、日本のようにインテグレーションや運用管理をSIerが引き受けるモデルでは売りにくいのではという質問をすると、確かに日本市場ではそういう面はあるだろうとのこと。SIerの仕事を奪う部分があるのは事実だが、だからといってインテグレーションや運用管理にお金を掛け続けていいわけでもない。「そろそろそういったビジネスモデルから抜け出すとき」と遠藤氏。とはいえ、他社システムとのインテグレーションといった作業は残るので、SIerの仕事がなくなることはないとしている。

 さらに、今回のさまざまな発表の成果として、遠藤氏はジョアン・オルセン氏を迎えてOracle Cloud Serviceという組織ができあがったことも大きな意味のあることだと指摘する。これは、従来Oracle On Demand Serviceと呼んでいた組織が変化したものであり、Oracleが本格的にクラウドビジネスへ参入することの表れだとのこと。クラウドというからには、SaaS的なサービスだけでなくプラットホームの提供も視野に入っているのかと質問すると、「当然そういうことになっていくだろう。Exalogicの登場でそれができる要件はそろった」と遠藤氏は見解を述べた。

 正式な発表ではないのでどのような形態のサービスになるのか、提供時期はいつになるのかといったことは現時点では一切分からないが、将来的にOracleがパブリッククラウドのプラットホームサービスを展開することになるのだろう。

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