ビッグデータを分析するというよりも、身近な業務のデータを可視化することで効率化やビジネス支援につなげる。これが同社のセルフサービスBI活用法だ。「こちらの方がビジネス的なインパクトが大きい」と野中さんは話す。
「確かに将来予測などの分析は、できないよりはできた方がいいですし、今後もそれを否定するつもりはありません。しかし、弊社のような受注生産型の工場では、それ以前に情報が見えないことで右往左往したり、生産性が下がっていたりしているケースが非常に多い。高度な分析よりも単純な可視化の方が恩恵を受ける人が多く、投資効果が高いんです」(野中さん)
無理に普及させようとしない、というのも大きな学びの1つという。ニーズがない人にスキルを教えようとしたところで、結局は使わないため成果につながらない。社内講習会を頼まれることもあったが、ニーズがなければ「ふーん」で結局終わってしまう。そのため、出席者に対して、仕事上困っている課題やそれにまつわるデータを持ってくるように依頼しているそうだ。
「本当に困っている人はすぐに成果が出るので、こんなことができるようになったって回りに言うじゃないですか。そうすると『じゃあ俺もやってみようかな』と次の動きにつながるわけです。その小さな成功体験を積み上げていくのが、挫折しないコツかなと思っています」(野中さん)
今は情報システム部の次長だが、生産計画部門から移ってきた野中さんは“IT畑”の出身ではない。業務部門とIT部門、両者を経験しているからこそ見える視点があるという。
「情報システム部門の中だけでは、現場のニーズは見えにくいのです。『こういうことで困っている』と言われたときに分からない、想像ができないですね。現場仕事で苦労した経験があってこそ、道具としてITが使えるというところはあります。情報システム部門の管理者になって気付いたのは、部門は違えど、みんな似たようなことで苦しんでいて、似たようなツールを作って解決しようとしている事例が実に多いということ。
こんなツールが欲しいんです、と言われたときに『それはQlikViewで解決できるんじゃない?』と返せるようになりました。ユーザー部門にいるとニーズが見える。情報システム部門にいると会社全体を俯瞰(ふかん)できる。両者のメリットがあるので今は非常にやりやすいですね。1つの事例を水平展開したり標準化したりすることで、無駄なIT投資を抑えられると感じています」(野中さん)
野中さんのように、業務部門からIT部門に移ってくるケースは少ないが、徐々に増えてきており、IT部門全体の意識も変わりつつあるそうだ。セキュリティや予算管理など、ユーザー部門にとって“ブレーキ役”だった部署が、ビジネス支援の投資を積極的に行う組織になりつつある。
「元から情報システム部門にいた人はコストの計算に強く、リターンの計算が強いのは現場経験がある人ということかもしれないですね。両者の融合が進めば、さらにさまざまな価値を生み出せると思います」(野中さん)
セルフサービスBIを単にデータ分析のツールとして使うだけではなく、業務改革のプラットフォームと運用しているSUBARU。業務部門とIT部門の連携という面でも、参考になる部分は多いのではないだろうか。
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