この実証実験では、2体のロボットで掛け合うことで破綻を防いでいるが、同じような方向性で、1体でも「独り言」を言わせるという形も考えられるという。
「例えば、ラーメンのお店を勧める場合、相手に『どこか、ご飯に行かれるんですか?』という質問することから始めようとすると、その返答を予測するのは難しい。返答のバリエーションが広くなるからです。しかし、ロボットの『ラーメンかな、今日は』という独り言に対して『どうして?』とお客さんが反応する形で会話が始まったらどうでしょう。
これなら言葉の意味を解釈しなくていいですよね。“興味を持った”ということが分かればいいだけなので。ここから『あ、もしかしてラーメン、興味ありますか?』と2択で答えられる質問をすれば、おすすめのラーメンの話へと持っていけます」(馬場さん)
こうした仕組みは、技術レベルを落としても効果が出せることが大きなメリットだ。人間とAIのコミュニケーションを成立させるには、音声認識精度の向上など、技術面の強化ももちろん大切だが、インタラクションデザインを軸に、関係性を生み出すことで突破できる部分もある。両者が補完し合うことが大切なのだろう。
ルンバの話もそうだが、人とロボットの関係性をデザインする際に重要なポイントになるのは「生命らしさ」――もっと踏み込んでいえば、人間がロボットを“受け入れる”には、何らかの生命らしさを感じる必要があるのではないだろうか。
生命らしさを感じさせる、という観点では、一般的にロボットの造形が注目されることが多い。ここでの造形というのは、姿かたちだけではなく、キャラ設定など、ロボットの存在を形作る情報も含まれる。
一方、生命らしさという点でこだわったのは、「自分から話し始める」という積極的な介入の姿勢だ。質問に答えるというような受け身の動きではなく、あえて人間側に主導権を持たせないようにすることで、ロボットやエージェントは、単なるツールから関係性を持った1つの“存在”に昇華するのだ。
「基本的には、ユーザー側の『関与』というトリガーを待たずに、ロボット側が自発的に関与し始めるデザインにしたがりますね。石黒研と僕らが議論すると、そういう出口になりがちです(笑)」(馬場さん)
コミュニケーションロボットに代表されるように、ロボットとの対話や関係性を考える傾向は、特に日本で強い。世界的にはロボットは作業を代行させる存在、という観念が強いためだ。しかし、対話が生む可能性は計り知れないものがある。AI Labでは、「対話エージェントによって、AIは人の怒りを鎮められないか」という実験も行ったそうだ。(後編へ続く)
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