Notesを導入するも、利用されずに挫折を味わう挑戦者たちの履歴書(38)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、青野氏が松下電工に入社するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年08月09日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 大阪大学を卒業後、松下電工株式会社(現パナソニック電工株式会社。以下、松下電工)に入社し、営業企画の仕事に従事していた青野氏。いったんは好きなコンピュータの世界から離れたかに見えたが、思いがけず事業部内にPCを導入する仕事を一手に任されることになり、120台規模のクライアント/サーバシステムの構築に奔走する。

 「本当に面白くて、『ああ、やっぱりおれはコンピュータが好きなんだな』と再認識しました」

 ちょうどそのころ、松下電工が社内ベンチャー制度を立ち上げる。自身のコンピュータへの断ち切れぬ思いを再認識していた青野氏は、早速立候補して、社内有志とともにシステムインテグレーションの会社を立ち上げた。社名は「ヴイ・インターネットオペレーションズ株式会社」。現在も活動を続ける、主にインフラ周りのソリューションを得意とするシステムインテグレーターだ。

 「業務内容は、受託によるシステムインテグレーションでした。例えばイントラネットの構築ですとか、ソフトウェアの違法コピーの監視ですとか、その他もろもろ……。松下電工が住宅建材を製造している関係で、大和ハウスさんや竹中工務店さんといった大手の住宅系の会社が当時のお客さまでした。そういった会社に行って、要件を聞いてシステムを作る、というのがぼくの社会人3年目の仕事でした」

 念願かない、ようやく好きなコンピュータを仕事にすることができた青野氏。さぞや仕事に熱中していたに違いない。そしてまさにこの時期に、サイボウズ創業につながる大きな転機が訪れることになる。

 その伏線は、社内ベンチャーを立ち上げる前に事業部のITインフラ構築の任に当たっていたころにまでさかのぼる。当時、事業部内にLotus Notes/Dominoを導入しようという話が持ち上がり、青野氏も導入プロジェクトに参画する。120台のPCにクライアントソフトをインストールして回り、サーバも設定して、「さて、どうぞお使いください」というところまで何とかこぎ着けたが……。

 「ユーザーにまったく使われなかったんです。これはもう、システム管理者の立場としては大失敗でした。なかでも1番悲しかったのは、ある日、朝からLotus Notes/Dominoのサーバが落ちていたにもかかわらず、昼になるまで誰からもクレームが上がってこなかったことです。見事なまでに、使われていなかったんですね!」

 Lotus Notes/Dominoの前に導入した電子メールは、非常に活発に利用されていた。にもかかわらず、Lotus Notes/Dominoは使ってもらえない。Notes Mailはもとより、掲示板機能やそのほかの機能もほとんど使われることがなかった。ワークフロー機能も、設定が複雑すぎて導入を断念した。

 「せっかくお金と手間を掛けて導入した情報共有の仕組みが、ユーザーにまったく使われない。これはショックでした……」

 その後、同氏は事業部を離れて社内ベンチャー企業に参画することになるが、そこで驚くべき光景を目にする。

 「社内ベンチャーのメンバーは皆外出が多かったので、メンバーの1人が簡単な行き先掲示板アプリケーションを作ったんです。メンバーの名前が表示されて、その横に行き先や簡単なメッセージが表示されるだけのごく簡単なWebアプリケーションだったのですが、ものの1日か2日であっという間に作ってしまいました。それを見たとき、もうびっくりしました! Webを使えば、こんなに簡単に情報共有アプリケーションが作れてしまう。導入に失敗したLotus Notes/Dominoは、一体何だったのか!」

 青野氏はもう、頭に雷が落ちるほどの衝撃を受けたという。

 早速調べてみると、WebサーバとCGIの組み合わせを使えば掲示板アプリケーションが簡単に作れることが分かった。Webの技術を使えば、Lotus Notes/Dominoのように重くて複雑なシステムを導入するまでもなく、簡単に情報共有の仕組みが作れるではないか! この出来事を機に、青野氏は次のような思いにとらわれるようになる。

 「Web技術を使った情報共有ソフトウェアを世に出してみたい……」

 まさにこのときの出来事が、後にサイボウズを創業することになる契機となったのである。


 この続きは、8月11日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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