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» 2010年11月15日 12時00分 UPDATE

挑戦者たちの履歴書(70):“信頼感”こそが、躍進のカギ

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、宇陀氏がセールスフォース・ドットコムの社長に就任するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 日本において、IT業界のみならずあらゆる業界で最もマーケティング効果が高いのは、著名な企業に自社製品を導入してもらい、それを事例として公開することだ。

 各業界でトップクラスのシンボリックな企業に自社製品が導入されれば、同じ業界のほかの企業に与える影響は極めて大きい。なおかつそれを広く一般に公開すれば、ほかの業界に対しても広くアピールすることができる。

 宇陀氏は株式会社セールスフォース・ドットコムの社長に就任後、それまでのキャリアで培った豊富な人脈を駆使して、自らそうした企業に対するトップセールスに飛び回る。

 「損保ジャパン、みずほ情報総研、キヤノンマーケティングジャパン、日立ソリューションズ……。こうしたお客さんは、もちろん営業の担当者も頑張ってくれたんだけど、最初は僕の個人的な人脈から始まった商談も多かったんです」

 もちろん、セールスフォース・ドットコムのサービスそのものに対する評価も高かった結果の導入なのだろうが、最初のきっかけとなったのは、それまでの宇陀氏個人との付き合いの中で培われた信頼感だった。

 「製品の良さとかテクノロジの良さっていうのももちろん重要だけど、人が何か決断するときってそれだけじゃなくて、大きな意味での“信頼関係”というものを1番重要視しますよ。そういう意味では、“人間としての魅力”みたいなものを大事にすることは、ビジネスの成功にとって本当に重要で、回り回っていずれは大きくなって返ってきます。僕は、もともと人間そのものに興味があるんです。学生の頃に読んだ、『対談 サラリーマンの一生―管理社会を生き通す』という本の内容は面白くて、今でもよく覚えています。雄弁多才などは、男子の資質としては一番下で、その上は、豪放らい落、大きな岩が崖をころげ落ちるような圧倒的な勢いのような様。一番上は、沈深重厚。あまり多くを語らないけれど、周囲の人がその人に惹きつけられていくような感じ。こういった人間の魅力みたいなものを身に付けられるようになりたいと思っています。仕事の成果とは別に、常にそのことが目標にある。それが回りに回ってビジネスチャンスになって返ってくるということだってあるんです」

【参考文献】
▼『対談 サラリーマンの一生?管理社会を生き通す』(城山三郎・伊藤肇著、角川書店、1986/02)

 こうして、宇陀氏が長年のキャリアを通じて構築してきた信頼関係を基に、さまざまな民間企業へセールスフォース・ドットコムのサービスが導入されていった。他方で、郵便局会社(旧日本郵政公社)やエコポイント申請システムをはじめとした、官公庁や地方自治体にも同社のサービスは広く採用されているという印象も強い。

 しかし、こうした役所は個人的な人脈で製品の導入を検討するなど、もちろんご法度だし、事実宇陀氏は役所関係には何の人脈も持っていなかったという。では、こうしたユーザーはどのような経緯で導入に至ったのだろうか?

 「そもそもの始まりは、われわれが中小企業の導入事例を雑誌に掲載したり、パンフレットに抜き刷りにしていたことでした。当時、経済産業省や総務省は、中小企業へのIT導入促進という命題を抱えていて、その解決策を検討する一環として、われわれが出した中小企業の導入事例に非常に興味を示してくれたんです」

 また、いろんな外郭団体が開催しているセミナーでプレゼンテーションやデモンストレーションを行った際にも、こうした役所の担当者と名刺交換などを行う機会があったという。そうこうしているうちに、「ぜひ詳しく話を聞きたいのですが」と問い合わせが来るようになり、「では、弊社のオフィスでデモをご覧になりますか?」という流れで、ようやく官公庁の課長・係長クラスにセールスフォース・ドットコムのサービスを直接紹介できるところまでこぎ着けた。

 「役所の圧倒的多数の方々は、やっぱりすごく優秀でまじめな人たちですから、セールスフォースのサービスの良さをすぐに理解してもらえましたね。さらに、ある人に気に入ってもらえると、そこからまた別の部署や役所の人に話が伝わって、『じゃあウチでも』という具合に、徐々に広がっていった感じですかね」

 こうして宇陀氏率いるセールスフォース・ドットコムは、地道な活動の積み重ねで少しずつ導入事例を増やしていった。こうした事例をこつこつ積み上げていくことの意義について、同氏はこれもやはり“信頼”を獲得するためのものだという。

 「先ほども言ったように、人もそうですけど、会社において1番大事なのは、やはり“信頼”ですよ。そういう意味では、金融機関や官公庁へ自社のサービスが導入されたことで得られた信頼感というのは、極めて大きいものがありましたね」


 この続きは、11月17日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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