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» 2011年04月20日 12時00分 UPDATE

挑戦者たちの履歴書(105):“さくら”の由来に拍子抜け

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、田中氏がさくらインターネットを立ち上げるまでを取り上げた。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 舞鶴高専の4年に在学していた1996年12月、田中氏はそれまで学内向けにボランティアで提供していたホスティングサービスを、商用サービスとして学外のユーザーにも提供を開始した。さくらインターネット誕生の瞬間だ。

 このタイミングで商用サービスを開始するに当たっては、いくつかの契機があったと言う。その内の1つは、さくらインターネットの名称に由来するものだ。

 「ちょうどこの時期は、『.ne.jp』ドメインが新設されたタイミングで、好きなドメイン名が選べたんです。当時、多くのプロバイダーのURLは長くて分かりにくかったので、『じゃあ、これを機に、なるべくシンプルで分かりやすいドメイン名を取得しよう』と考えたんです。そこでたまたま“sakura”というドメイン名が取得できたので、『じゃあ、“さくらインターネット”にしようか』と」

 なるほど。さくらインターネットという名称は、まずはドメイン名ありきだったわけだ。ところで、なぜ“sakura”というドメイン名を選んだのだろうか? この名前には、何か特別な由来や思い入れがあったのだろうか?

 「巷ではいろいろなことが言われているようですが……。実は、ごく軽いノリで決めたんです。当時、ある友達が『さくら』という名前のゲームにはまっていたらしくて、彼とドメイン名について話していたときに、『さくら、で良いんじゃない?』と言われて。確かに分かりやすいしシンプルだから、『ああ、じゃあそれでいいか!』と、ノリで決めてしまいました」

 ……。もっともらしいエピソードを勝手に期待していたこちらとしては少々拍子抜けだが、しかし「シンプルで、分かりやすいドメイン名を」という戦略は、結果的には大正解だったようだ。後に触れるが、その後さくらインターネットのサービスが口コミで広がっていく過程において、“sakura”という一目で覚えられるドメイン名は、大きな役割を果たしたという。

 もう1つ、商用サービスを立ち上げるに当たって田中氏を後押ししたのが、当時たまたま目にした雑誌の特集記事だった。

 「ちょうどそのころ、『TRY!PC』という雑誌で、『OCNと自前サーバでスモールプロバイダーを始めよう』という内容の特集記事を、たまたま目にしたんです。この記事の内容には、随分触発されました。ただ、プロバイダーとなると、個人でやるにはある程度限界があるけど、ホスティングならそれまで学内でやってきた実績もあるし、何とかなるのではないかと思ったんです」

 そうと決まれば、後は行動あるのみ。まずは、ホスティング用のサーバを置く場所の選定だ。地元舞鶴のサービスプロバイダー数社に「ホスティングビジネスのために、サーバを置かせてほしい」とメールを送ったところ、ダンスインターネットというプロバイダーから返事が届いた。

 「当時ダンスインターネットの社長をされていた梅木さんに、そのとき考えていたホスティングのビジネスについて話を聞いてもらいました。その結果、ダンスインターネットでアルバイトとして働く代わりに、タダでサーバを置かせてもらえることになりました。おまけに、回線費用までダンスインターネットに持ってもらえることになりました」

 早速、私物のPC-98と、このために新しく調達したDOS-Vの2台のPCを、ダンスインターネットのデータセンターに持ち込んで設置した。OSにはオープンソースのFreeBSDをインストール。当時の企業向けホスティングサービスの多くが、高価なワークステーションに商用UNIXを組み合わせていたのに比べると、圧倒的に安価で軽い環境だ。しかし、田中氏はサービス品質に関しては絶対の自信があった。

 「当時から、『これからは、PCサーバとオープンソースソフトウェアが主流になるだろう』と思っていました。なのでPCサーバとオープンソースの組み合わせで、サービスの品質を落とすことなく、かつ価格を圧倒的に安くできる自信がありました」

 ちなみに、このとき田中氏を見い出したダンスインターネットの梅木氏は、その後も田中氏のビジネスを側面から支援し続け、現在ではさくらインターネットの監査役を務めている。

 「さくらインターネットを始めるに当たっては、舞鶴高専の教官の導きでインターネットに早くから触れることができたのはもちろん、梅木さんと出会うことができたのがとても大きかった。これは本当に、幸運だったと思います」


 この続きは、4月22日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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