連載
» 2011年05月20日 12時00分 公開

挑戦者たちの履歴書(114):インターネット企業ならではの乱高下

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、田中氏がさくらインターネットを上場させるまでを取り上げた。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 2007年12月、経営不振の責任を取り社長を辞任した笹田氏に代わり、さくらインターネットの社長の座を受け継いだ田中氏。前回紹介したように、不採算事業からの撤退や第三者割り当て増資など、矢継ぎ早に手を打つことで、同社は急速に業績を回復していった。

 その過程で田中氏は、社内体制の改革にも着手する。特に、管理部門の立て直しが急務だったという。

 それまで人事業務に特化した部門は存在せず、採用や研修のプランも存在しない状態が続いていた。また、決算開示も常に遅かった。さくらインターネットが上場している東証マザーズでは、45日以内の決算開示が義務付けられているが、同社は45日目ぎりぎりで開示するのが常だった。

 そこで、田中氏は管理部門の改革に着手する。まずはトップに、管理業務のスペシャリストを充てた。人材の採用計画をきちんと立て、社員研修も始めた。経理・財務業務も整備し、決算開示も早めた。

 「今では、15日間で決算開示できるようになりました。これは、東証マザーズの中では一番早いです。『さくらインターネットは健全に経営している』ということを、決算の高速化でもアピールできているのではないかと思います」

 こうした思い切った改革には、多少の痛みも伴ったはずだ。田中氏も、「結構、辛いものがありましたね……」と当時を振り返る。

 「でも誰よりも、現場のスタッフが本当に一生懸命頑張ってくれました。その努力があったからこそ、会社のバックヤード業務をきちんと整備することができたと思っています」

 ちなみにこうした業務改革は、今もまだその途上にあるという。現在同社では、全社基幹システム導入プロジェクトが進行中だ。狙いはもちろん事務コストの削減、業務の効率化と、意思決定のためのタイムリーかつ正確なデータの入手だ。そして、これらは迅速なサービスの投入に直結してくる。

 話を2008年当時に戻そう。不採算事業から撤退したことで財務状態は好転したが、経営の危機が報じられたことで、本業であるデータセンターサービスのユーザーは減らなかったのだろうか?

 「別に債務超過になることでサービスの品質が落ちたわけではなかったので、ほとんどのユーザーさんは『まあ、大丈夫だろう』と思われていたみたいです。今思うと、当時ユーザーが減らなかったのは、本当にありがたかったですね。逆に、『債務超過? 本当に?』と驚かれた方は、それだけさくらインターネットのサービスに思い入れを持っていただいていた方々でした。そういう方々にも、状況をきちんと説明することで安心していただけました。本当にあの時は、お客さんに支えてもらいましたね」

 実際のところ、不採算事業の減損を早々に終えて、本業に専念した結果、早くも2009年3月期の決算では単体で黒字化を達成した。

 前回紹介したように、上場から債務超過へ転落するスピードも速かったが、そこから回復するスピードもまた驚異的だ。田中氏からしてみれば、経営の悪化もそこからの回復も、当然の帰結ということなのかもしれないが、そのスピード感にはやはり、インターネットビジネスならではのものがある。


 この続きは、5月23日(月)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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