出戻り先の東芝で出会った運命の相手挑戦者たちの履歴書(131)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。今回は、瀧田氏の東芝時代を取り上げる。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年12月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 1991年、ひょんなことからかつての勤め先、日電東芝情報システムの親会社である東芝に、出戻りのような格好で転職した瀧田氏。ちょうど当時、日本のIT業界では「ダウンサイジング」を合言葉に、メインフレームやオフコンのシステムをUNIXワークステーションにリプレイスするソリューションが花盛りの時代だった。

 東芝でも当時、サン・マイクロシステムズ(以下、サン)からOEM供給を受けて、UNIXワークステーションの製造・販売を行っていたが、ハードウェアの技術者は社内にいるものの、ソフトウェアの技術者が絶対的に不足していた。そこで瀧田氏が、UNIXのソフトウェア技術者としての腕を買われて呼び戻された格好だ。

 東芝で瀧田氏が所属していたのは、UNIXワークステーションの商品技術部。ミッションは、実に広範に及んだ。サンのソフトウェア製品のサポートはもちろんのこと、マーケティングやセールスの支援業務にも度々従事した。

 また、この時期、後の瀧田氏の人生を左右する大きな出会いや出来事が、立て続けに起こる。そして、その主たる舞台となったのがサンのユーザー会だった。瀧田氏は、東芝を代表してここに幹事として参加したのだ。

 「ちょうどこのころ、サンから次々と革新的な技術が出ていた時期だったこともあって、ユーザー会にはIT業界のそうそうたるメンバーが集まっていました。そうした方々とのお付き合いを通じて、社外での活動を活発に行うようになったのが、ちょうどこの時期からでしたね」

 さらにこのユーザー会の場で、瀧田氏はある運命的な出来事に遭遇することになる。世界初の本格Webブラウザ「NCSA Mosaic」(以下、Mosaic)との出会いだ。

 「確か1993年ごろのことだったと記憶しているんですが、サンのユーザー会の席で『ねえ、Mosaicって知ってる?』という話が出たんです。そこで、いろいろ話を聞いてみると、『お、これはすごいかもしれない!』と思ったんです」

 1993年当時は、世間ではUNIXワークステーションが絶頂期を迎えつつある時期だった。しかし同時に、ビジネス的には早くも売り上げに陰りが見え始めていた。そんな折、新たなITトレンドの潮流が起こりつつあった。インターネットである。

 日本初の商用インターネットサービスプロバイダとしてIIJが設立されたのが、1992年のこと。さらにその3年後、Windows 95が発売されたことをきっかけに、日本中でインターネットの一大ブームが巻き起こることになる。しかし、瀧田氏をはじめとする目利きは、それよりもかなり早い時期からWebブラウザが切り拓くインターネットの可能性に着目していたのである。

 「『わが社としても、できるだけ早くインターネットビジネスの企画を考えなければいけないのでは?』と東芝社内で声を上げ始めたのが、1994年ぐらいのことだったと記憶しています。そして翌1995年に、当時インターネット系の技術で注目を集めている米国の新興企業を調査するために、アメリカへ出張に行きました」

 シアトル、ニューオリンズと、全米各地にあるインターネット系企業を訪問した中には、当然のことながら、当時創業したばかりのMosaic Communications(後のNetscape Communications)も含まれていた。同社が提供していたブラウザ「Netscape Navigator」は、当時のブラウザ製品のデファクトスタンダードとして、爆発的な勢いで普及しつつあった。同製品は日本においては「ネスケ」の略称で呼ばれ、「インターネットをやるなら何はともあれネスケがないと始まらない」というのが、インターネット黎明期におけるブラウザの状況だったのだ。

 瀧田氏は、ここにおいて初めて、後に人生を賭けて取り組むことになるブラウザの世界に本格的に触れることになったのである。


 この続きは、12月7日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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