ソニーモバイルは他にもXperiaのスマート商品群の試作機をいくつか発表している。それぞれにまだ詳細は明らかにされていないが、コンセプトの一端を近藤氏からうかがうことができた。
「Xperia Eye」は、ユーザーがキーホルダー(カラビナ)やクリップを使ったり、ストラップで首から吊して身に着けるウェアラブルカメラだ。ウェアラブルカメラ自体は今どきそれほどめずらしい商品カテゴリーではない。むしろカメラに手を添えてシャッターを切らないと、狙った写真が思うように撮れない、不要なファイルばかりが増えるといった使い勝手の悪さを敬遠する向きもあるほどだ。Xperia Eyeはウェアラブルカメラに対するユーザーの不満を、水平360度/垂直180度の球面レンズを搭載することで、ユーザーの正面にある風景をまるごと撮れるようにして、解消する使い勝手を狙っている。
さらに「インテリジェントシャッター」と呼ばれるアルゴリズムにより、被写体の顔を認識して最適なタイミングでシャッターを切ったり、周囲の音声レベルを感知して、盛り上がっているシーンを動画で撮る機能も開発が進む。撮影された写真に含まれる人物、ブレや画角も含めて出来映えを評価しながら不要と思われる写真はソフトウェアのアルゴリズム処理により自動で削除する機能も取り込む。この辺のアルゴリズムはソニーのサイバーショットのチームとの共同開発を進めながら練り上げている段階だという。近藤氏は「ユーザーが撮影時にもファインダーから“Look up”できるようなデジタルカメラをつくることで、家族とのリアルなコミュニケーションをサポートしていきたい」とXperia Eyeの開発意図を説明している。
「Xperia Projector」は、本体にソニーが独自開発する1366×768ピクセルの液晶ディスプレイデバイス「SXRD」を採用する超短焦点ポータブルプロジェクターだ。内蔵する赤外線センサーで手や指先の動きを検知して、投写された映像上のオブジェクトに対してタブレットの画面のようにタッチ操作ができたり、内蔵カメラでユーザーの顔を認識して、家族それぞれにパーソナライズされた情報を表示する機能、あるいはジェスチャー操作、声認識による入力インターフェースなどが検討されている。本機が目指す完成形も、映像機器でありながらコミュニケーションデバイスであるという視点に注目したい。
例えば、プロジェクターとカメラを同時に活用しながらビデオコールを楽しんだり、家庭内のホームアプライアンス機器をつないでエネマネ・セキュリティのモニターとして活用する方向性も示されている。本体はスマホとのペアリングを必ずしも必要としない、スタンドアロンで使う製品として構想されている。もちろんスマホにペアリングしてBluetooth経由で映像や動画を転送して表示するような、現在ソニーから発売されているポータブル短焦点プロジェクター“Life Space UX”「LSPX-P1」のような使い方も可能になるようだが、本体に内蔵ストレージを入れてコンテンツが保存できるようになる形態も検討されているようだ。プロジェクターにSIMカードを入れて、LTE通信でビデオ通話やインターネット動画が再生できるようになったらさらに面白そうだ。
「Xperia Agent」は音声認識による操作に対応する多機能パーソナルアシスタントだ。現時点ではそのポテンシャルが最も謎に包まれているコンセプトモデルだが、現段階では暫定的に「インフォメーション」「コミュニケーション」「ホームコントロール」という3つの使い方がイメージされているようだ。
本体のデザインはアタマとカラダに分かれていて、電源を入れると2つの目に見立てたLEDが白く点灯する。可愛らしい仕草でアタマやカラダも回転させる。MWCの会場ではお披露目されていなかったが、今回の取材ではXperia Agentがしゃべりながら自己紹介するデモンストレーションも体験できた。
本機にはXperia Earと同じ世代の音声認識エンジンを、本機の使用用途に最適化した形で積まれるようだ。天気予報や交通情報などのインフォメーションを発話したり、カラダの部分に搭載されているディスプレイに表示して知らせてくれる機能が検討されている。またカラダの部分に搭載するレーザープロジェクターを使って、より大きな画面をテーブルトップなどに投写してインフォメーションや写真を表示することもできるようになりそうだ。スマホとペアリングして音声通話をサポートしたり、宅内のホームアプライアンス機器のコントロールセンターとしての機能開発も進められている。
近藤氏はソニーモバイルが開発を進めるスマート家電の方向性について、「コミュニケーション」であると明言する。「使うユーザーに寄り添いながら、生活を便利なものに変えていく、新しいコミュニケーションのスタイルを提供することがXperiaシリーズのスマート商品群の役割です。スタートアップ的に思いついたものをバラバラ出しているのではなく、新しいコミュニケーション像を明確に描きながら、インテリジェンスを具現化する商品を提案していきたいと考えています」(近藤氏)
Xperia Earを皮切りに、発表されている3つのコンセプトモデルも次々と商品化が実現されることになれば、ソニーモバイルが考える新しいコミュニケーションの具体像もよりはっきりと見えてくるだろう。この10年の間にスマートフォンが普及して、私たちのコミュニケーションの手段はもう既にかなり便利なものになっていたように思う。しかし、ふと立ち止まって考えると、私たちは逆にスマートフォンの画面の中での出来事に心を奪われてしまい、リアルなコミュニケーションの可能性を閉ざしてしまっていたのかもしれない。もう一度、コミュニケーションの原点に立ち返って、なにがスマートなライフスタイルなのかを考えさせてくれるような、新しいXperiaシリーズの提案に期待したいと思う。
オーディオ・ビジュアル誌の編集・記者職を経たのち、フリーランスのライターとして活動する。ハイレゾに音楽配信、スマートフォンなどポータブルオーディオの最先端を行く技術とサービス、コンシューマー向けエレクトロニクス機器全般の使いこなしをテーマとするレビューに加えて、それぞれの開発者へのインタビューを得意とする。海外での展示会取材レポートやメーカー開発者へのインタビューなども数多くこなす。
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