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» 2008年01月23日 09時15分 UPDATE

神尾寿の時事日想:2台目&学生を狙え――激化する新規市場争奪戦

携帯電話市場では、そろそろ2008年春商戦に向けた動きが活発になる。第1弾となったのはウィルコムの春モデルと、ソフトバンクの学生向け料金プランだ。ここには、今後の市場の動きを読み解く重要な鍵がある。

[神尾寿,Business Media 誠]

 2008年の春商戦を前に、携帯・PHSキャリア各社の新製品・新サービスの発表が相次いでいる。

 1月21日、ウィルコムは春商戦向けの新モデル7モデルを発表した(参照記事)。新たに投入する装飾メール「デコラティブメール」や、他社携帯電話との絵文字相互変換など、春商戦に向けた新サービスもあわせて紹介した。

 一方同じ21日、ソフトバンクモバイルが春商戦向けのキャンペーンとして、学生向けの新料金プラン「ホワイト学割」を発表した(参照記事)。これは学生のみが新規契約できる料金プランで、同社の「ホワイトプラン」(月額980円)の基本料を無料にし、パケット料金定額制の「パケットし放題」(月額0円〜4410円)、「S!ベーシックパック」(月額315円)、専用ポータルサイト「コンテンツ学割クラブ」の利用をセットにしたものだ。当面は期間限定のキャンペーンという扱いで、2月1日から5月31日まで新規加入を受け付ける計画である。

原点回帰で“2台目&法人”にテコ入れ

 ウィルコム、ソフトバンクモバイルそれぞれの取り組みを見てみよう。

 まずウィルコムであるが、同社の春商戦モデルは、シンプル&ポップな「HONEY BEE」を目玉に、スリム化をしたハイエンドモデル「WX330K」、人気機種のリニューアルモデル「9(nine)+」、アンテナ部をコンパクトにしたデータカード「WS014IN」など、携帯電話キャリアよりモデル数は少ないが、特徴的なラインアップになっている。

 これらのラインアップで顕著なのは、どのモデルも音声定額とデータ定額を前提にし、“2台目需要”を強く意識していることだろう。メインの携帯電話と組み合わせて使う「2台目」の需要は、元はといえばウィルコムが開拓した市場であり、ウィルコムらしさが発揮される分野だった。しかし、昨年はこの市場をソフトバンクモバイルが狙い打ちにし、相対的にウィルコムの存在感と競争力が減殺されていた。今回の春商戦ラインアップの内容は、この2台目市場における競争において、ソフトバンクモバイルなど携帯各社に対する“ウィルコムの反撃”になっている。

 個別の端末を見ると、筆者が特に評価したいのは、スリム&コンパクトな「HONEY BEE」である。同機は優れたデザインかつクセがなく、万人向けの仕上がりになっている。また、機能面や操作性(UI)の部分も幅広い顧客層向けに練られており、通話とメールを軸にしたコミュニケーション端末としてシンプルながらよくまとまっている。今後のマーケティング次第な部分もあるが、ウィルコムにとって久々の“万人ウケ”するモデルになりそうだ。

 また、今回の発表の目玉ではないが、2008年のウィルコムにとって重要な取り組みになるのが、法人向け内線ソリューションの「W-VPN」である。これは企業内の構内電話をPHSで置き換え、さらに外出中は公衆網でも定額利用可能な“内線”として使えるようにするものだ。構内PHSは1990年代から使われており、現在もかなりの規模で稼働している。この代替需要と、今後さらに拡大する法人モバイル需要を取り込めば、この分野はウィルコムにとって今後100万台規模にまで成長するポテンシャルがある。

 春商戦に向けたウィルコムの取り組みを俯瞰すると、「2台目市場」と「法人市場」にきちんとフォーカスし、昨年後半はやや薄れていたウィルコムらしさが復活してきた印象だ。携帯電話各社とは異なるコンセプトで端末やサービスを投入し、なおかつ競合他社と向き合う姿勢が伺える。料金面での新たな競争施策が打ち出されなかったのが残念だが、こちらも「料金のお得感や分かりやすさ向上など、(料金施策も)現在、社内で検討している最中」(ウィルコム)だという。

かつてのauの牙城、「学生層」に挑戦

 一方、ソフトバンクモバイルは、先述の「ホワイト学割」で春商戦の主戦場である学生層の取り込みに力を注ぐ。周知のとおり、この市場はかつてauが「ガク割」で人気を博し、その後の躍進に繋がる“きっかけ”としたマーケットである。料金値下げで学生に訴求するため、収益的に見るとマイナスであるが、ここで若年層に高く評価されて支持を集めれば、ブランドイメージや顧客満足度の点でプラスに働く。auは「ガク割」を主力サービスのCDMA 1X WINに適用せず、その後、学生層の支持を得るための料金値下げ努力を放棄してしまったので、なおさらだ。

 さらにホワイト学割の内容をよく見ると、ソフトバンクモバイルにとって収益面のマイナスだけとは一概に言えないものになっている。このプランでは月額基本料こそ0円だが、「パケットし放題」と「S!ベーシックパック」はきちんと課金される。今どきの学生がメインの携帯電話として使えば、メールやコンテンツ利用が一切ないとは考えにくいし、音声定額適用外の他社ケータイとの通話や着信もある。ホワイト学割の契約が“学生たちのメインケータイ”として利用されれば、通常のホワイトプランが学生層の“音声定額目当ての2台目”として契約されるよりも収益的にはプラスになるだろう。むろん、学生たちがホワイト学割で音声定額のみの2台目利用しかしなかったら目も当てられないが、それを防ぐためにも同社は学生向けの「コンテンツ学割クラブ」を用意し、1台目として使ってもらおうと腐心している。

ドコモの「出口が閉じる」、その後の世界

 「2台目」「法人」そして「学生層」。これらは2008年春商戦における主戦場であり、今後の携帯電話市場を読み解くキーワードでもある。なぜなら、1億を超える携帯電話の既存契約者市場は急速に流動性を失い、各キャリアのシェアを急速に変えるほどの“変化”は難しくなっているからだ。

 もっとはっきり言おう。ドコモユーザーの流出が、終わろうとしている。ドコモはMNPの競争と前後し、FOMAのエリアや端末ラインアップの改善を行い、さらにHSDPAで通信サービスの魅力を底上げした。2年間の利用を前提とした「新料金プラン」や「バリューコース」の導入でも成功を収めつつある。ドコモの解約率は12月以降著しく低下しており、「(解約率が)過去最低ラインで推移している」(ドコモ幹部)という状況だ。ドコモ全体が既存顧客の満足度向上を指向した結果、ドコモの既存契約者が市場に出てくる「出口」は閉じようとしているのだ。

 誤解を恐れずに言えば、MNPにおける既存契約者の流動期は「終わり」を迎えようとしている。その後にくる世界は、残された数少ない新規契約市場の奪い合いだ。その代表的なものが、2台目・法人・学生の市場なのだ。

 今後、au、ソフトバンクモバイル、ウィルコムが勢力を伸ばそうとするなら、これら新興市場をいかに効率よく開拓し、すばやく獲得していくかが重要になる。ソフトバンクモバイルとウィルコムは春商戦に向けてその一手を打ったが、昨年末から苦戦が続くauの発表はこれからだ。また、ソフトバンクモバイルも、春商戦向け新ラインアップの発表が今後に控えている。

 今年の春商戦は、新規契約市場をめぐって昨年以上の激戦が予想される。残るau、ソフトバンクモバイルの動きに、引き続き注目である。

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