インタビュー
» 2012年08月03日 17時20分 公開

開発陣に聞く「DIGNO DUAL WX04K」:世界初の「PHS対応Androidスマートフォン」 開発の舞台裏を京セラに聞く (1/2)

ウィルコムから発売された京セラ製の「DIGNO DUAL WX04K」は、世界で初めてPHS通話に対応したAndroidスマートフォンだ。今、なぜPHSなのか、そして開発にはどんな苦労があったのか。京セラに聞いた。

[平賀洋一,ITmedia]

 ウィルコムから発売された京セラ製の「DIGNO DUAL WX04K」(以下、DIGNO DUAL)は、世界で初めてPHSと3Gの2つの通信方式に対応したAndroidスマートフォンだ。

photo 「DIGNO DUAL WX04K」

 PHSによる音声通話のほか、ソフトバンクモバイルの3Gを使う音声通話とパケット通信も行える。PHSの音声通話は固定電話に匹敵する高音質さが特徴なうえ、ウィルコム同士であれば通話が24時間無料。さらに、それ以外の携帯電話や一般固定回線にも定額通話が行える「だれとでも定額」も利用できる。

 パケット通信は下り最大21Mbpsの高速データ通信サービス「ULTRA SPEED」に対応しており、これまでのPHS端末では難しかった高速なWebブラウズや動画共有サイトの利用が可能だ。もちろんAndroidデバイスとして無線LANも利用できる。

 ディスプレイは約4インチのワイドVGA(800×480)TFT液晶で、ボディはIPX5/IPX7の防水仕様。約500万画素CMOSを採用したアウトカメラに加え、約30万画素CMOSのインカメラも備えた。CPUには1.2GHz駆動のデュアルコア(R-mobile APE5R)を搭載した。OSはAndroid 2.3だが、今後はAndroid 4.0へのアップデートも予定しているという。

photo 京セラの熊谷氏(写真=左)と川居氏(写真=右)

 そんなDIGNO DUALについて、商品企画を担当した京セラ 通信機器関連事業本部 マーケティング部 商品企画課の川居伸男氏と、デザインを担当した同社デザインセンター デザイン4課の熊谷友里子氏に話を聞いた。

3GとPHS、2つを1つにする苦労

photo 京セラの川居氏

 DIGNO DUALがユニークな点は、国内のAndroidスマートフォンでは唯一、PHSと携帯電話という2つの電話番号(IP電話を除く)を持っている点だ。ただしPHSは音声通話のみが利用可能で、データ通信は3GとWi-Fiを用いる。イメージとしては、3G対応のAndroidスマートフォンに、PHSの通話機能を追加したようなモデルだ。

 こうした構成について川居氏は、「スマートフォンも使いたいが、ウィルコムの『だれとでも定額』も活用したいというユーザー向けに企画したため」と話す。スマホといえばPCに近いネット利用がメリットの1つだが、DIGNO DUALはPHSの利点を生かした音声通話にシフトした製品というわけだ。

 もちろんそれは、ソフトバンクグループに入り、定額通話サービスのだれとでも定額で事業再建を進めるウィルコムのビジネスモデルともマッチする。市場環境の変化に合わせ、だれとでも定額の利用シーンを増やしつつ、高速なネット利用も提供すべく生まれたDIGNO DUAL。その開発は、ウィルコムと京セラの双方が必要性を感じたことで自然にスタートしたという。

 「だれとでも定額を使いたい――というユーザーは年々広がりを見せています。当初は若年層が多く、京セラのPHS『HONEY BEE』シリーズと組み合わせる女子高生ユーザーが目立っていましたが、今では幅広い年齢層に活用されています。そうなると、スマートフォンなどトレンドを踏まえた新しい対応端末も必要になってきます」(川居氏)

 ウィルコムのスマートフォンといえば、かつて一時代を築いた「W-ZERO3」シリーズがある。W-ZERO3のOSはWindows Mobileだったが、現在のスマートフォン市場はiPhoneとAndroidが大勢だ。川居氏は「開発効率を考えると、Androidをカスタマイズする方法が唯一の選択肢でした。そのほかのスマホ向けOSでは、実現できなかったでしょう」と振り返る。

photo DIGNO DUALの背面と側面のフォルム。できるだけ段差を小さくするよう処理している

 そのDIGNO DUALの開発でハードルとなったのが、ベースバンドチップセットの問題。スマホで用いられているベースバンドチップは3GやLTEには対応はしているが、PHSをサポートしていない。

 「スマートフォン用ベースバンドチップで3GもPHSもサポートしているものは、現在のところ存在しません。そのためDIGNO DUALには、音声端末で使われているようなPHS用のベースバンドチップを個別に搭載しています。サイズ的には非常に不利ではありましたが、そこは技術陣が頑張ってくれて、まとめ上げることができたと思います。スマホの裏にPHSの音声端末がくっついているようなサイズやデザインではいけませんしね」(川居氏)

 またPHSと3Gを共用する上で、周波数の近さも課題となった。PHSは1.9GHz帯を使っているのに対し、ソフトバンクモバイルの3G網は2.1GHz帯を使っている。特にPHSは出力が小さいので、3G側の出力が大きいと影響を受けやすいという。

 「アンテナが近いとそれぞれ干渉してしまうので、配置も距離を取るなど工夫しています。またPHSと3Gは同時待受ができますが、PHS通話中に3Gで着信すると、干渉して通信が途切れてしまうといった課題もありました。しかし、これでは実用的ではないということで、そういった問題が起きないよう検討を重ね、解決しています」(川居氏)

photo DIGNO DUALのカメラ部。ちなみに端末の一番上には、ワンセグアンテナが横向きに収まっている

 PHS用のチップとアンテナを追加して2つの電話番号を持ったDIGNO DUAL。だが、マイクやスピーカー、アプリなど“電話”としてのユーザーインタフェースも2つというわけにはいかない。プロセッサに2回線の待受を処理させるなど、ミドルウェアの開発も必要になった。そもそもPHSをサポートしていないAndroidに対し、PHSの音声通話をプラスすることは難しかったと川居氏は振り返る。

 こうしたデュアル待受で気になるのが消費電力についてだが、「もともとPHSは低消費電力が特徴ですから、あまり支障はありません」と川居氏。「DIGNO DUALのバッテリー容量は1520mAhとスマホとしては標準的なものですが、PHSとすればかなり大きい。PHSが増えたことで電池寿命が極端に短くなることはありません。また、デュアルだからといって発熱しやすくなるといったことも特にありません」

 3GのスマートフォンにPHSの通話機能を追加することの難しさを踏まえたうえで、PHSのデータ通信を行うスマートフォンも開発できるのか、質問してみた。

 「そうしたご要望があるのは承知しています。技術的にはAndroidでPHSを使ってデータ通信を行うことは可能です。今回、DIGNO DUALではPHSの通話に絞り、データは切り分けましたが、かなり困難な開発となりましたので、データ通信という要素が入ることでさらに開発が難しくなることは間違いありません。ここについては、DIGNO DUALの市場での反響を見ながら検討させていただきたいと考えています」(川居氏)

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