通信業界を揺るがす「サブブランド問題」の論点MVNOの深イイ話(2/3 ページ)

» 2018年01月30日 06時00分 公開
[佐々木太志ITmedia]

「公平な競争」とは何か?

 2002年に「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」(MVNO事業化ガイドライン)を策定して以来、総務省は一貫してMVNOを振興するための政策を行ってきました。それは、MVNOを育てることで移動通信市場への競争の導入を図り、その競争によってサービス水準が向上したり料金が下がったりすることを企図してのことです。

 本来であれば、業界内の競争の活性化は、自由な参入の拡大によって達成されるものですが、移動通信市場には「電波の有限希少性」、すなわち事業の根幹を担う電波の周波数資源は無限に利用可能なものでなく、限られた事業者にしか割り当てることができない、という特性があり、業界への新規参入が困難という背景があります。そのため総務省は、電波を持つMNOに、MVNOへの網貸し出しを義務付け(第二種指定電気通信設備制度)、MNOとMVNOの間の競争導入を進めてきました。

 過去にもこの連載で説明した通り、MNOがMVNOに設備を貸し出す対価となる接続料は、データ通信に関していえば「原価+適正な利潤」となるよう省令で規制されていて、おおむねMVNOはMNOの設備をMNO自身とそう変わらない条件で利用できるようになっています。あるいは少なくともそうなっている「はず」です。それでは、なぜ今になって「公平な競争環境」への疑念が出ているのでしょうか?

 この点に関する主な論点は4つであるように思われます。

  1. データ接続料の算定の規制が不十分であり、MNO自身の原価(サブブランドの原価)とMVNOに提示されている原価(データ接続料)が公平ではないのではないか?
  2. データ接続料の算定に関する規制は十分だが、MNOが赤字覚悟で販売しているのではないか?
  3. データ接続料以外の卸料金(音声通話等)が不平等なのではないか?
  4. 販促費用や販売箇所、端末など、接続料や卸料金以外の不平等が存在するのではないか?

 1については、これまでの接続料の規制強化に関わる取り組みに対する肯定的評価をIIJがヒアリングで述べるなど、今回の検討会ではMVNO各社から表立った批判はありませんでした。ただ、その分2に関しては、「サブブランドの料金・通信品質の妥当性を検証すべきでは」(ケイ・オプティコム)といった意見がMVNOから出た他、構成員からも「サブブランドの会計を分離し、サブブランドのエンドユーザー料金がMNOのデータ接続料で達成可能であるかの検証(スタックテスト)を行うべきでは」という意見が挙がっています。

 また、3については「音声通話の料金は規制がなく、MVNOは原価より高く払わされている」(楽天)、4については「サブブランドがプライムブランド(メインブランド)の既存店舗を併設店として利用するのは不公正」(楽天)といった意見も出ました。

 これに対し、MNOやサブブランド側からは、1に関して「UQ mobileを含め全てのMVNOを公平に扱っている」(KDDI)、「Y!mobileとMVNOは同条件でネットワークコストを応分に負担している」(ソフトバンク)、2に関して「一定の通信速度を確保することがポリシー」(UQ mobile)などの意見が検討会で出されました。

 音声通話に関する3、販促や販売に関わる4をひとまず横に置くとすると、データ通信についてMVNO側からは「他の事業による補てんを前提としてMNOが赤字覚悟でのサブブランドを運営しMVNOつぶしをしているのではないか?」との意見が出る一方、MNOからは「公平な原価でMVNOに設備を提供しているのだから、後はそれぞれの企業努力の問題ではないか」という反論が出た、という構図です。

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