菅政権肝いりの「キャリアメール持ち運び」、どこまでニーズがあるのか?(2/3 ページ)

» 2021年07月26日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

持ち運び開始時期が「2022年夏頃」から「2021年中」に前倒しに

 菅政権もキャリアメールの持ち運びに対して強い期待感を抱いているようで、それを示しているのがキャリアメール持ち運びの提供開始を巡る動きだ。実は2021年3月30日に実施されたスイッチング円滑化タスクフォースで公開された最初の報告書案では、携帯大手3社のシステム開発期間が平均で約1年となっていることから、2022年夏頃の実現が適当とされていたのだ。

キャリアメール 同じく「スイッチング円滑化タスクフォース」第5回会合資料より。総務省ではもともと、キャリアメールの持ち運び実現時期を「2022年夏頃」としていたが、最終的な報告書では「2021年中」に変更されている

 だが2021年5月24日の第7回会合で公表された報告書案では、「2021年中をめどに、できる限り速やかに実現することを目指す」と変更され、最終的な報告書でも同じ内容となっている。その根拠について、別の資料では「スイッチングコスト低廉化の早期実現の観点から、事業者の準備状況も踏まえ」と記されているのだが、有識者による議論で時期を早めるべきとの議論は見当たらないことから、菅政権の意向が変更に大きく影響した可能性が考えられるわけだ。

 実際、菅義偉内閣総理大臣は2021年6月23日に、キャリアメールの持ち運びの年内実現に言及したとされている。また武田良太総務大臣も2021年6月25日の記者会見で、菅総理の発言に言及する形で先のタスクフォースの報告書に触れ、「年内の持ち運び実現を目指して調整が進められていると承知をしております」と発言。キャリアメールの持ち運びに強い期待感を抱いている様子がうかがえる。

「変更元管理方式」が採用、気になる料金は?

 では、キャリアメールをどのような形で、他社サービスでも利用できるようにしているのだろうか。スイッチング円滑化タスクフォースでの議論を振り返ると、2つの方法が候補に挙げられている。

 1つは移転元のキャリアがメールサーバを管理し、ユーザーが移転先のサービスからインターネットを通じてそれを利用する「変更元管理方式」。そしてもう1つは、移転先キャリアがメールサーバを管理し、移転元キャリアがそこにユーザーの受信メールを転送する「転送方式」である。

キャリアメール 「スイッチング円滑化タスクフォース」第5回会合資料より。キャリアメールの持ち運び方法は、移転元がメールサーバを管理する「変更元管理方式」と、移転先が管理し移転元からメールを転送してもらう「転送方式」の2つが検討された

 それら2つの方式を事業者間協議で検討した結果、どちらの方式を取ってもシステムの変更に一定の時間とコストが発生するとの結果に至った。ただ受信だけでなく送信にも移転元キャリアのメールサーバが利用できるメリットや、転送方式で発生するなりすましのリスクなどを考慮し、最終的には変更元管理方式による持ち運びが「望ましい」との結論に至っている。

 ただ、システムの変更や維持には一定のコストがかかることから、それを誰が負担するのか? という点は気になるところだ。同タスクフォースの報告書では、コストの回収方法について「利用者に転嫁するかどうかを含め、基本的に事業者において自主的に判断すべき」とまとめられているが、同時に「仮に有料サービスとする場合も、その利用を妨げる水準とならないようにすることが適当」とも記されている。

 ゆえに現時点で誰が、どのような形で負担するのかは見えていないのだが、利用するユーザーが限定されることから、毎月の通信料にコストを上乗せして徴収することはユーザーから納得を得られない可能性が高いだろう。一方で、高額でなければ有料でのサービス提供を認めていることを考えると、持ち運びを求めるユーザーに対して毎月料金を負担してもらう形が現実的なのではないかと考えられる。

 なお、持ち運びの提供範囲に関しては、MVNOを含む他事業者にオープンかつ公平な仕組みで提供されるべきとされている。加えて同じキャリア間で「キャリアメールの提供がない自社内サービス」もその対象とすべきとされており、オンライン専用プランへの持ち運びも可能とようだ。

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