米Wall Street Journalは10月12日、FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワーキング、そしてGoogle Waveなどのコラボレーションプラットフォームの普及により、電子メールが主役の座を追われるという内容の特集記事を掲載した。
この記事には鋭い指摘も数多く見られ、ソーシャルネットワークの普及拡大、リアルタイムWebサービスの増加、そしてこれらのサービスの管理に役立つフィルタやタグの普及について客観的な分析がなされている。
しかし残念なことに、この分析は、流行語が人々をせき立てて製品の人気を高めているシリコンバレーという真空地帯の外側に広がる世界の現実を客観的に反映したものではない。全世界の企業で働く無数のデスクワーカーや外回りの従業員たちは今でも、標準のコミュニケーションツールとして電子メールに頼っており、電子メールを電話の代わりに利用することも多いのが現実だ。
Microsoft Outlook、IBM Lotus、あるいはGoogle Appsを使っているユーザーに聞いてみるといい。最近流行の楽しいWebサービスがたくさんあるにもかかわらず、彼らは電子メールをオフィスの主役の座から降ろそうとはしていない。
3億人のユーザーがFacebookを利用して、友人、家族あるいは同僚とつながっているのは事実であり、6000万人近くの人々がTwitterという強力なメッセージングプラットフォームを利用することで、従来の非同期方式の電子メールなしで済ませているのも事実だ。
そして、Google Waveの招待状がeBayのオークションで取引されているのも事実だ。電子メール、インスタントメッセージング、ファイル共有、ソーシャルネットワークを合体させたGoogle Waveは、リアルタイムコミュニケーションとコラボレーションに夢中になっている人々の欲求を満たすのだ。Wall Street Journalの記事を執筆したジェシカ・バセラロ氏は次のように述べている。
もちろん人々は今でも電子メールを使っている。しかし電子メールは、インターネットのかつての利用形態に適した手段だ。すなわち、ログオンとログオフを繰り返し、メッセージをまとめてチェックするというやり方だ。しかし今日、ユーザーはPCや携帯電話を通じて常に接続されているのだ。常時接続環境は多数の新しい通信手段を生み出した。これらの手段は、電子メールよりもずっと速くて楽しいものだ。インスタントメッセージングですぐに返事をもらえるのに、なぜ電子メールの返事を待つ必要があるのだろうか?(中略)添付ファイルの時代から抜け出せない電子メールは、Google Waveのようなサービスに比べると退屈に思える。
電子メールは退屈かもしれないが、今でもコミュニケーションの主役であることに変わりはない。
IT関連の論文を多数発表しているニコラス・カー氏は「今や非同期通信は人々の敵だ」と主張するが、われわれは常に接続状態を維持できるわけではなく、また、常にリアルタイムサービスを利用していたいとも思わない。
Google Waveの使いづらい共同編集カーソルで苦労したユーザーなら誰でも知っているように、常時接続は電子メールよりも生産性を低下させるのだ。仕事中でも遊んでいるときでも、われわれはときどき接続を切り離す必要がある。
電子メールは時代遅れのアプリケーションだという考え方は、Web2.0というアスベストが含まれた、ありとあらゆるサービスを毎日吸い込んでいるシリコンバレーの連中が流布している希望的見解にすぎない。「この新しいウィジェットを使ってごらんよ!」「このレコメンデーションエンジンをもうチェックしたかい?」「まだSnurlを使っているのかい?!」「Bit.lyを試すべきだよ」――これが彼らの日常会話なのだ。
FacebookとTwitterは素晴らしいソーシャルネットワークであり、楽しく(時としてたわいのない)、スピーディーなコミュニケーションを生み出す。しかし企業でこれらのプラットフォームが、Outlook、Lotus Notes、あるいはGmailに取って代わることはあり得ない。
電子メールは非同期の通信方式であり、それが魅力でもある。1日11時間働いて、ようやく仕事から解放されたら、ログオフし、床に就く。そして翌朝、目が覚めたら、電子メールが待っているのだ。
そこに書かれた電子テキストはそれだけで、読み手の注意を喚起するのに十分だ。接続状態でなくても、あるいは送信者と受信者が直接通信をしていなくても、効率が損なわれるわけではない。Wall Street Journalの読者は、電子メールの利点を見事に要約している。
わたしは今後も電子メールを使い続けるつもりだ。自分の好きなときに、自分の好きな頻度で、個人的に知っている相手にメールを書きたいからだ。スパゲッティをゆで過ぎたことを世界中に知らせたいとは思わない。
Facebook、Twitter、Google Waveなどは、リアルタイムの迅速性や親密さが求められる場面で活躍するだろう。しかし非同期性が最大の魅力である電子メールは今後も、主役であり続けるだろう。
もし電子メールとリアルタイム型Webサービスの競争を支配する神が存在するとすれば、それは昔ながらの“常識”というものだろう――つまり、電源を切るべき時を判断する能力だ。
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