梅雨の明けきらない7月半ばの有楽町BICカメラのパソコン売り場。筆者は、値段を調べに行った販売員の戻ってくるのを待っていた。ほどなく販売員は、申し訳なさそうな顔で「3万9800円です……」と言った。私の口をついて出た次の言葉は「ええっ!?」という一言だけ。たったこれだけの短いダイアローグを聞いて、いったい我々2人が何の話をしているのか想像できる読者はそれほど多くはいないだろう。
3万9800円は、現代の日本において如何ほどの価値だろうか? スタバのキャラメルマキアートなら毎朝、彼女にもおごって飲んでも2カ月は楽しめ、一人寂しくドトールのモーニング珈琲なら、なんと半年以上通い続けられる。いや、筆者のお気に入りの下町根岸のカウンター飯屋なら、毎晩、美味いハムエッグ定食を食べても3カ月以上生き延びることが出来るのだ。お金の使途や価値はさておき、話を元の路線に戻そう。
筆者は、過去20年近い苦い経験から、モバイルPC本体を購入する際には、常に、そして同時に、オプションの大型バッテリーパックも併せて購入することが日常となっている。実は、この「3万9800円」というのは、発売後まだ日の浅いソニーVAIO type U VGN-UX50(以降UX50と表記)の内蔵大型バッテリーパックの販売価格なのだ。多くのパソコンメーカーにおいて価格設定の最も難しいのはオプション製品、その中でも厄介なのはバッテリーであることは業界人なら多少は理解出来るところではある。
メーカーによって多少の違いはあるが、通常、「オプション製品」という位置づけの商品は、本体を買った人のみが購買の対象者となり、それぞれのオプション製品には固有の「フック・アップ・レシオ」と呼ばれる「本体を買った人のいったい何パーセントがそのオプション製品を買うか?」という算式に基づいて生産量や価格が決定される。しかし、いずれもが、当たることが少ない販売前の仮定の算式であることには違いない。もちろん、100%なら基本的にはオプションとする必要は無いのである。
ソニーのVAIO type Uバッテリーパックは、そういう計算から逆算すると、殆どの人が買わない、即ち、買う人はごく少数だが、買うときには値段も気にせず何事も躊躇しない太っ腹でマニアックな「ガジェットクイーン」層が衝動購入するという判断基準でコストを見ながら決定された価格だろう。残念ながらいつまでたってもクイーンになりきれない自称「ガジェットキング」の筆者は涙を飲んで大型バッテリーパックをあきらめたしだいだ。
type Uサイズの超小型モバイルPCにおいて、標準搭載の本体内蔵バッテリーで3時間少々の駆動時間が長いか短いかは意見が分かれるところではあるが、今まで大型バッテリーパックを買わなかったことの無い筆者が購入したVAIO type Uはそれなりの偏執的魅力を持ったガジェットであることは確かだろう。
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