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» 2007年04月04日 13時30分 UPDATE

林信行の「Leopard」に続く道 第1回:理想と現実のギャップにあえいだ黎明期のMac OS (1/2)

PC業界はWindows Vistaの話で持ちきりだが、今年はMac OS Xも「v10.5」――つまり5度めメジャーアップデートを迎える。“Leopard”と呼ばれるMac最新OSがリリースを目前に控えているのだ。この連載ではLeopardの全貌をさまざまな角度から解き明かしていく。

[林信行,ITmedia]

 今年メジャーアップデートを果たすのは、Windows Vistaだけではない。Mac OS X v10.5“Leopard”の名で知られる最新Mac OSがいよいよリリースされる。

og_leopard_001.jpg Time Machineのデモ

 待望の新OSには、ユーザーが意識しなくても自動的にデータのバックアップを取り続ける「Time Machine」や、仮想画面を切り替えてデスクトップをディスプレイ表示サイズの何倍も広く使える「Spaces」をはじめ、Dashboardウィジェットを簡単に作成したり、インターネット越しに画面共有を行うなど、盛りだくさんの機能が用意されている。

 この連載は、発売が迫るLeopardの全貌をさまざまな角度から解き明かそうとするものだ。最初の数回は、Macになじみのない人のために、Mac OSの歴史から振り返っていく。

Macは「思想のパソコン」だ

og_leopard_002.jpg Macintosh 128K

 Macが誕生したのはいまから23年前の1984年1月24日。1モデルだけの製品で、価格は2495ドル。MacWriteというワープロソフトとMacPaintというお絵描きソフトが付属していた。そして最も革新的だったのは、入力デバイスにマウスを採用した点だ。

 いまでこそマウスは当然のように使われているが、当時販売されていたMac以外のPCには、マウスなんてついていない。Appleが前年に出したLisaとNECが発売したPC-100という製品には付属していたものの、これらは目が飛び出るほど高価なビジネス向けの製品だった。おまけにPC-100のOSはMS-DOSで、マウスをつなぐことができる、マウスで操作できるアプリケーションがいくつかある、という程度の話だった。これに対して、Macやその前身のLisaは、マウスがなければ操作できないコンピューターだったのだ。

 MacとPCとの違いは、つまりここ、最初の時点ではっきりと分かれている。

 まず、PCはスペック主導でつくられたコンピュータだった。IBMやIBM-PCの互換機メーカーは、ある決められたスペックにあわせてハードウェアを作る。そしてMicrosoftがMS-DOSというOS(いまならWindows)を提供し、スペック同士を擦り合わせて成り立つ。

 これに対して、Macは「パソコンとはこうあるべきだ」という“思想”から出発し、その理想に向かって歩み出した。1つの理想をハードとソフトの両面から実現していく。マウスを動かす速度にあわせてカーソル移動量が変化したり、フロッピーアイコンをゴミ箱に入れると、フロッピーディスクが本体から自動的に飛び出てくるといったハードとソフトの連携は、最初のMacから実現されていたものだ。

 その後、1990年代中頃になってMac互換機が登場し、Macも「思想のパソコン」から「仕様のパソコン」へと変貌し、ハードとソフトの連携が疎になってくる。しかし、最近のMac OS Xでは、グラフィックスチップの性能を生かしてリッチなグラフィック表現をするなど、再び両者の連携が密になりつつある、というのが現在までの流れだ。

黎明期のMac OSが抱えていた課題

 さて、デビュー当時のMac OSは、単にSystemなどと呼ばれていた。最初のバージョンはSystem 0.85だ(Macでは、これに加えてファイルブラウザのFinderも、OSと切っても切れない重要な存在だったため、Finderバージョンを併記することが必須だった。つまりSystem .85/Finder 1.0が、最初のMac OSだ)。

 デビュー当時にMacが抱えていた最大の課題は、とにかくマウス操作を広げることにあった。スティーブ・ジョブズは1つのことを広めるために、とにかく余計な要素を取り払うことを重視する。例えばソフトバンク クリエイティブの最新刊「iPodは何を変えたのか?」(スティーブン・レヴィ著/上浦 倫人 翻訳)では、ジョブズが最初iPodのボタンを4つだけにしようとしていたことが明かされている(1つ前のメニューに戻るための「MENU」ボタンは、開発スタッフが必死に説得してつけたものだそうだ)。

 同様に初代Macでも、マウス操作を広げるために、あえて上下左右のカーソルキーを取っ払ってしまい、キーコンビネーションで操作を実行するキーボードショートカットも、開発中のシステムでは実装されていたのに、製品版では取り払われてしまったという。

 初期のMac OSは、シングルタスクOSで、1つのアプリケーションを実行している間は、画面がそのアプリケーションで占有されてしまう。つまり、1度に1つのアプリケーションしか実行できない。

 ただし、場合によってはちょっとした計算や出力先プリンタの選択など、同時に利用したい機能もある。そこで発案されたのが、デスクアクセサリー(DA)という単機能の小アプリケーションだ。今日のウィジェット(Windows Vistaで言うガジェット)を思わせるが、その仕組みはかなり違う。DAは、OS的にプリンタドライバと同じ扱いのプログラムでシステムそのものに組み込む必要があったのだ。

 1990年頃までのMac OSでは、バージョンアップの度にインフラ部分が強化されていった。最初は400Kバイトのフロッピーディスクしか扱えなかったものが、やがて800Kバイトのものに対応し、さらに1.4Mバイトになり、HDDにも対応していった。

 DA以外の方法でも、1度に複数のアプリケーションを利用できるように、疑似マルチタスクを実現した(一見、今日のOSと同様に複数のアプリケーションを同時に実行しているようにみえるが、実は一番手前のアプリケーションだけを優先的に処理しており、バックグラウンドのアプリケーションは半ば止まっていることも多かった)。また、初期のMacの内蔵ディスプレイが白黒だったこともあり、Finderのアイコンも白黒の線画が基本で、線の色を変えられるという程度だった。

 1985年にはスティーブ・ジョブズがAppleを去っていたことから、ジョブズのやや強引な理想主義よりは、現実的な使いやすさを重視する姿勢に代わり、キーボードショートカットなどは実装されていた。そうしたインフラ整備の中でも、我々にとって特に関心が高いのが、日本語への対応だろう。

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