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» 2007年08月28日 15時30分 UPDATE

「数値ではない」ことを重視するThinkPadの機構設計 (1/2)

「耐荷重100キロ超」「重さ1キロ未満」とイマドキのノートPCは数値で性能を訴求する。だが、ThinkPadで大事なのは数値でない。その真意を機構設計の第一人者が語った。

[長浜和也,ITmedia]

第5世代のCFRPはさらに進化していく

kn_lenoky01.jpg レノボ・ジャパン ノートブック開発研究所サブシステム技術プラットフォーム機構設計担当の大谷哲也氏

 前回前々回と紹介してきた開発者によるレノボのラウンドミーティング第3回は、機構設計にまつわる話題を取り上げる。この話題をレクチャーしてくれた大和事業所の大谷哲也氏(レノボ・ジャパン ノートブック開発研究所サブシステム技術プラットフォーム機構設計担当)は、前回紹介したスタッフデザイナーの嶋久志氏と同じく、ThinkPad 700番台から開発に携わるようになり、それ以降に登場したすべてのThinkPadにおける機構設計を手がけている。

 大谷氏が所属する「プラットフォーム機構設計」では、筐体設計を主に担当するが、そこで求められるのは、筐体に対する「強度」、「重量」、(意匠デザインを実現する)「外観」、「コスト」、「量産性」、(耐衝撃、耐振動、耐湿度、耐外気温などの)「環境性能」の実現で、ともすれば、それぞれが相反するこれらの項目について、トータルバランスの取れた製品にすることがプラットフォーム機構設計の役目となる。

 大谷氏はこれらの項目から、とくに材料開発に関して、筐体パネルに使われている「CFRP」(カーボンファイバー・レインフォースドプラスチック、炭素線維強化プラスチック)について説明した。CFRPはThinkPad 700/同750シリーズから採用されているが、当時は薄型成型ができないマグネシウム合金に代わって、軽さと強度が確保できる素材として、生産性の低さと高コストな点は割り切って採用していた。

 その後、ThinkPad 600では、従来のプレス成型から金型へCFRPを流し込む方法を採用することで生産性を改善し、ThinkPad 560/同570では、それまで線維が表面に出てThinkPad的に求められる外見が損なわれる問題を、短い炭素繊維を採用することで解決するなど、ThinkPadの筐体材料としてのCFRPは、世代ごとに進化を遂げてきた。マグネシウム合金の薄型成型が可能になった現在でも、広い面積を要するA4サイズのThinkPad Tシリーズで、CFRPが使われ、その後に登場したThinkPad Zシリーズでは、芯となる発泡材ボードを上下からはさむサンドイッチ構造を取り入れている。

kn_lenoky03.jpg ThinkPad 700シリーズで採用されたCFRPは改良を加えてThinkPad z60シリーズでは第5世代に進化した
kn_lenoky02.jpg ThinkPad z60シリーズで採用されたハイブリッドCFRP(右)と、側面CFRPを線維方向で直行させて接合した天面パネル(左)

「PCを知らずにPCを使う」ユーザーに挑むThinkPad

 大谷氏はThinkPadの開発における、ユーザーフィードバックの重要性についても説明している。その典型的な例として、これまでも紹介されているのが米国における“学生ThinkPadユーザー”のケースだ。米国の大学や高校では、PCの普及が日本で想像する以上に進んでおり、大谷氏の話によると「学校の広い敷地のすべてで無線LANが使え、ベンチの脇にはAC電源が用意されている」という状況にあるらしい。そういう学校に通う生徒の1人1人にThinkPadが支給されているという、実にうらやましい環境にあるが、そこまで使う層が広がってくると「PCを知らずにPCを使うユーザー」(大谷氏)というのが出現するそうだ。

 米国のあるサポートセンターから、不具合発生率が通常より突出しているとの情報を得て、大和事業所のスタッフが調査のために、故障が異様に発生しているある学校にわざわざ出向いたという。そこでは、「HDDに保存した音楽を聴くためにPCを起動したまま自転車のかごに放り込んで走っていく」(大谷氏)というような、「開発者の考えの及ばない使われかたをしていた」(大谷氏)という状況にあったことが判明した。この例にあるように、ThinkPadの開発陣は、ユーザーで問題が発生すると、その“現場”を実際に訪れて、原因が判明するまで時間をかけて綿密な調査を行い、解決する方法を次世代製品に適用することでThinkPadを進化させている。

kn_lenoky06.jpg 米国学校の現地調査では、キーボードのゴミを取るためにキートップを取ったら、パンタグラフを壊してしまうケースが続出したという。その対策のため、次のモデルではパンタグラフの強度を向上させている
kn_lenoky07.jpg 「考えの及ばない」使い方をするユーザーに対応するため、HDDの耐衝撃性能も向上させた。そのテストは従来“手動”で行っていたが、大和事業所では自動で行う機器を導入している

 ユーザーの意見を反映するThinkPadの改善、で気になってくるのが、ほとんどのノートPCで採用されている「タッチパッド」だ。ThinkPadではトラックポイントを依然として残しているが、ユーザーの意見を取り入れた結果、タッチパッドに切り替わってしまうことがありえるのだろうか。大谷氏は、この点について「最初はタッチパッドが使いやすいと感じるユーザーもいるが、使う時間が長くなればトラックポイントはより正確に使いこなせるようになる。快適な使いやすさを提供するならば、ThinkPadにはトラックポイントを実装することになる」とユーザーテストの結果を基に答えてくれた。

 このような、フィールドワークなどで得られた情報などを反映させて、現在のThinkPadに取り入れられている「ThinkPad Standard」が実現した。「主な改善アクションの成果」と大谷氏が語るThinkPad Standardには、新世代ThinkPadのキーテクノロジーともいえる「ThinkPad Roll Cage」や、一見地味に見える基板の耐久性やバッテリーの安全性を向上させる改善が盛り込まれている。

 マグネシウム合金を用いた「骨格」でノートPCの強度を確保するThinkPad Roll Cageは筐体の剛性を従来から20〜40%向上させ、内部基板への負荷に対する耐性を約30%向上させる。最新のThinkPad T61シリーズではこの“骨組み”が液晶パネルを支える天面部分にも採用された。強度を持たせた金属の骨組みが筐体内部に組み込まれることで、一見すると重量がかさみ、かつ、生産コストが増すように思われるが、この疑問について大谷氏は「確かにThinkPad Roll Cageは重量増の要因になるが、ほかの部分の軽量化によって、全体としては従来モデルと同じ重さに収まっている。開発コストもThinkPad Roll Cageによって増えた分はそれほど影響を与えるものではない」と説明している。

kn_lenoky04.jpg ThinkPad T61のスケルトンサンプル。液晶パネル天面に導入されたThinkPad Roll Cageが確認できる
kn_lenoky05.jpg ThinkPad Rollの導入によって強度がどれだけ向上するかを示したデータでは、筐体剛性が20〜40%向上するとされている

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