iPad miniの画面解像度は1024×768ドットで、iPad 2までとまったく同じだ。つまり、今でも現役のiPad 2できちんと動くアプリであれば、そのまま手を加えなくても(ちょっと表示が小さくなるだけで)iPad miniで動かすことができる。
ちなみに、この1024×768ドットは、PCの世界ではXGAと呼ばれる解像度であり、PC用に作られたWebページやプレゼン資料などの多くは、このサイズを踏襲している。つまり、これはPC用のWebページや書類を妥協することなく見られる解像度なのだ。
それでは、iPad miniのピクセル密度はどうだろう。iPad miniのピクセル密度は163ppi(ピクセル・パー・インチ)。つまり1インチあたりに163個のドットを表示できる解像度だ。これはアップルが「Retinaディスプレイ」と呼ぶ、第3世代/第4世代iPadのディスプレイ(264ppi)よりは荒いが、iPad 1や2の132 ppiよりはかなり鮮明になっている。
ところで、この163ppiというピクセル密度にも意味がある。実はこれは初代iPhoneからiPhone 3GSまでが採用していたのと同じピクセル密度なのだ。つまり、iPad miniのディスプレイは、昔、Retinaディスプレイなんていう言葉が知られていなかった時代、他社の携帯電話と比べてはるかに表示が美しいと評価されていた、3.5インチ163ppiのiPhone 3GSの画面を、ピクセル密度はそのままに、iPadのXGA解像度が表示できるサイズにまで引き延ばした画面サイズでもある。
iPad miniは、「最善を求めた結果として」画面が7.9型というサイズになったのであり、ただ単に「市場に流通しているいろいろなサイズのタブレットを見渡したところ7インチが1番売れ筋っぽいから7インチにした」と決まったものではない。少なくともiPad miniに関して言えば、画面サイズは7.9型でなければならなかった。
しかしそもそも、小型のiPadを出す意味が本当にあるのだろうか? ここについても「ある」という結論が出た。
従来のiPadは、その画面の大きさが魅力だが、その半面どうしても両手を使って操作することが基本になってしまう。これに対して、例えば電車の中で片手にポーチを抱えながら操作をしたり、キッチンで片手でフライパンに油を回しながらレシピを見たりといった片手操作ができるiPadは、やはり必要だろう、というのがアップルが出した結論だった。
この「片手操作」こそがiPad miniの存在意義といえる。
それでは、7.9型の液晶ディスプレイは、本当に片手操作に向くのだろうか。もしアップルが従来のiPadの形状をそのまま縮小して7.9型液晶にあわせたとしたら、おそらく手の小さな女性には片手で持てないサイズになっていただろう。
そこでアップルは、エンジニアリングの粋(すい)を尽くして、液晶の左右のベゼルを可能な限り小さくした。その幅は、第2〜4世代目のiPadの18ミリに対して、わずか6ミリだ(参考までにiPhone 5は4ミリ)。こうやって左右のベゼルを小さくすることで、ほとんどの人が片手で左右の端をつかむことができ、ジャケットのポケットにも、ジーンズの後ろポケットにも収めることができる現在のサイズを実現した。
ただし、ベゼルの幅をここまでがんばると問題も出てくる。iPhoneユーザーは、電子書籍などを読もうとして片手でiPhoneを持っているときに、(フレームが狭いので)知らず知らずのうちに親指が画面に触れてしまった、という経験があるかもしれない。
普通のタッチパネル製品なら、ここで誤操作になってしまうが、アップルはユーザーの指の動きを観察して、それがただ本体をつかんだ指が画面に触れているだけなのか、操作しようとしてタッチしたものなのかを認識してくれる技術を開発し、盛り込んでいる。
下の動画を見てもらうと分かるが、ただ端を持っているだけのときは、多少指が画面にかかっていても反応をせず、iBooksの電子書籍のページをめくろうとタッチしたときには、それを認識して、きちんとページを送ってくれる。
アップルはここまでやり尽くして初めて、7.9型というスクリーンサイズにGOサインを出す会社であり、ただ7型が流行っているからという理由でパネルを調達し、基板につないでプラスチックでくるんで「ハイ、できあがり」という会社とはわけが違う。
ちなみに、アップルのやり過ぎなくらいまでに細かく議論を尽くしたデザインに興味がある人は、ぜひとも「Objectified」というドキュメンタリー映画を見てほしい。デザイン部門のトップであるジョナサン・アイブ氏が「オレたち、ちょっとやり過ぎだろう?」と照れながら解説してくれる。残念ながら日本語字幕や吹き替え版はないが、これこそ日本のメーカーの人たちにぜひ見てほしい映画だ。
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