近頃、PC関連のアクセサリで「やたらと頑丈または複雑なパッケージが増えてきた」と感じたことはないだろうか。錠剤のように中身が見えるブリスターパックで、ステープラーではなく、上下左右すべてが溶着されていたり、あるいは二度と組み立てられないような箱に入っていたり、といった具合だ。マウスなど数千円クラスの製品で、こうした事例は増えつつある。
頑丈または複雑なパッケージに共通するのは「非常に開けにくく、いったん開封すると、元の状態に戻すのが極めて困難」ということだ。なぜわざわざユーザーにとって負担がかかる仕様にするのか。それはメーカーにとって深刻な、ある裏事情を反映している。
一般的に、製品のパッケージや説明書に書かれている注意書きの「数」は、そのメーカーが過去に受けてきたクレームの規模を知るバロメーターでもある。受けたクレームがたとえ難癖に近い内容だったとしても、その難癖を許す状況をそのまま放置していると、これから先、次から次へと同じような輩(やから)が湧いて出る危険がある。
それゆえメーカーは、過剰とも言える注意書きを盛り込んで、サポートや営業マンなどユーザーに接するスタッフが言い訳できる状況を作り出す。読む側からすると大量の注意書きというのは非常にうっとうしいが、メーカー側としては免責のために欠かせないわけだ。
もっとも海外、特にアメリカでは、こうした過剰とも言える注意書きはあまり見られない。それはユーザーが製品に対してクレームをつけることなく、気に入らないことがあれば、たとえ良品でもすぐさま返品してしまう「返品大国」であるという事情が大きい。どれだけ注意書きを細かくしても、責任の所在とは無関係に返品されてしまうのなら、書いても書かなくても一緒だ。
幸いにして日本では、相性による交換や未開封返品の受付などをサービスとして掲げている小売店を除き、基本的にユーザーの都合による良品返品は受け入れられない商習慣が確立しており、ユーザー側にも「正当な理由なくしては返品は困難」という意識が存在している。堤防が決壊して無条件返品を許すに至っているアメリカと、決壊せず踏みとどまった状態でユーザーに返品させないよう抑えこもうとしている日本とでは、この辺りの事情がまったく違う。
とはいえ、返品の大義名分さえあれば、日本のユーザーも返品することにやぶさかではないわけで、堤防を自ら破壊したり、堤防をやすやすと越えられるような抜け穴を作ることは、メーカーとしては是が非でも避けなくてはならない。こうしたことから、日本のメーカーとしては、ユーザーにいかに返品の口実を与えないかが大きなポイントとなっている。
つまり「弊社はきちんと例外事項やリスクについて説明していますよ。責任はそれを読んでいないあなたにあって、弊社に責任を押し付けて返品されるようでは困りますよ」という姿勢を全力でアピールし、ユーザー側に返品の口実を与えないのが、日本メーカーの戦略だ。パッケージや説明書の過剰なまでの注意書きは、その代表的な施策である。
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