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NASの法人モデルは家庭用と何が違うのか?SOHO/中小企業に効く「NAS」の選び方(第2回)(1/2 ページ)

» 2014年02月20日 14時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

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同じNASでも家庭と法人では使い方が違う

 前回は、USB HDDとNASの違い、さらにNASのメリットおよびデメリットといった基本的な知識について紹介した。連載第2回である今回は、家庭用NASと法人用NASの違いや、昨今のNASに搭載されつつあるユニークな機能について紹介したい。特に後者は「NASといえば大容量データを共有できるだけの製品」と考えている人にとって、興味深い機能もあるはずだ。

 メーカー各社の製品を見ていると、NASには家庭向けと法人向け、それぞれ別のラインアップが用意されていることが多い。中には外見はそっくりなのに、価格がまったく違っていて驚かされることもしばしばある。これらは具体的に何が異なるのだろうか。

 1つはパフォーマンスだ。家庭用NASはあくまで家族、多くても数人程度が利用するもので、かつ絶えず読み書きを行うわけではない。どちらかというと、写真や動画など、ある程度ボリュームがあるデータを個人がネットワーク越しに再生するといった「少ない人数で大容量データを扱う」という使い方が主だ。

 これに対して法人用NASは、オフィスの中で何十人ものメンバーが同時にアクセスし、オフィスファイルなど比較的小さなファイルの読み書きを行う。つまり「多い人数で小容量データを扱う」という使い方になる。同じNASでも使い方が家庭用とはまったく異なるのだ。

アイ・オー・データの家庭用NAS「HDL2-A」シリーズ(画像=左)と法人用NAS「HDL2-AH」シリーズ(画像=右)。いずれもボディデザインが同じ2ドライブ構成のNASだが、後者は出荷時の設定がデータ保護に適したRAID 1(後述)であり、保証期間が長く、有償保守サービスの対象製品となっている

 NASはもともと構造的にはPCと大差なく、内部にはマザーボードがあってCPUが載っているが、多人数からのアクセスを処理するためには高性能なCPUが必要になる。つまり法人向けNASにはそれだけ高性能なCPUや高信頼性のパーツが搭載されており、価格も高額になりがちだ。それゆえ、単純にドライブのバイト単価で計算すると、何倍もの差がつくことも珍しくない。

 さらにデータの保護機能についても、家庭用と法人用では大きく異なる。主に家庭用では仮に1Tバイトのドライブが2台搭載されていれば、それらを1つの領域とみなし、2Tバイトの高速なドライブとして扱えるように設定されている。いわゆる「RAID 0」(ストライピング)の状態だ。

 これに対して法人用の2ドライブ製品では、2つのドライブに同一のデータを書き込み、一方が壊れても復旧が可能な「RAID 1」(ミラーリング)と呼ばれる状態に設定されていることがほとんどだ。それゆえ容量の合計は2Tバイトだが、実際に使える容量は1Tバイトとなる。もちろんRAID 0に変更することも可能だが、データの保護機能を重視する法人ユースでは、あまりこうした使い方はしない。

「RAID 0」は複数ドライブを1つの領域とみなし、各ドライブに同時アクセスすることで高速化を図る(画像=左)。「RAID 1」は複数ドライブに同じデータを同時書き込みすることで、冗長化を持たせて耐障害性を高める(画像=右)。RAID 1の場合、実際に使える容量はドライブ1台ぶんとなる

 ほかにも法人用では、4ドライブ製品でRAID 5やRAID 6、また6ドライブ以上の製品ではRAID 5+0やRAID 5+1など、さらに上位となるRAID機能が利用できる。

 また別のドライブに複製を取るレプリケーション機能、遠隔地やクラウドへのバックアップ機能など、さまざまなデータ保護機能が用意されている。業務を止めないことを前提に、何重もの策が用意されているのだ。これらがシンプルなデータ保護機能にとどまっている家庭用NASとの大きな違いになる。

機能が特徴的な家庭向けのNAS製品

 一方、家庭用のNASは、HDDレコーダーと連携しての録画機能や再生機能にウェイトを置いた製品や、iTunesと連携して音楽サーバとして利用できることをアピールする製品が多い。CPUもそれほど高速ではなく、容量から見たコストパフォーマンスをアピールする製品がほとんどだ。

 また、最近ではスマートフォンやタブレットからアクセスできるストレージとしてのニーズも高まってきており、製品によってはPCからの設定が一切不要で、スマホさえあれば初期設定が完了でき、使い始められる製品もある。法人用のNASも、こうしたニーズがないわけではないが、まだまだこれからといったところだ。

 このほか最近では、動画や写真の保存だけに特化したNASも登場しつつある。前者はアイ・オー・データ機器の「RECBOX」、後者はバッファローの「おもいでばこ」がその代表例だ。さらに専用のアプリと組み合わせ、スマホからの読み書きに注力した製品も増えてきており、法人用NASとはまた違った、専門性の高い製品が増えつつある。現時点ではまだボーダレスな製品もあるが、今後こうした用途特化型の製品はさらに増えるだろう。

アイ・オー・データ機器のAV機能に特化したNAS「RECBOX HVL-AT」シリーズ(画像=左)。バッファローの写真用NAS「おもいでばこ」(画像=右)

 こうしたことから、家庭用に設計されたNASを法人で導入すると、以下のようなケースが起こりうることが分かる。なるべく避けるのが賢明という結論だ。

  • 共有機能が貧弱で、ユーザーごとのアクセス制限ができない
  • 同時に接続するユーザーが増えると、パフォーマンスが急激に落ちる
  • データの保護機能が不十分で、障害発生時の復旧が完全でない

 ただし、海外メーカーの製品などでは家庭用と法人用の区分があまり明確でないことも多いので、あくまで機能ベースで判断すべきだろう。

法人用NASの用途は「ファイルサーバ」と「バックアップ」が主

 法人向けNASの用途は、大きく分けて2つある。1つは各従業員がマイドキュメントに相当する領域をNAS上に置き、データの保存場所として自由に使うという使い道だ。いわゆる「ファイルサーバ」の用途である。クォータ機能を使い、例えば従業員1人につき最大で500Gバイトの制限を設けて、その中で自由に使ってもらうといった使い方になる。

 もう1つは、PC内のマイドキュメントのバックアップ先としてNASを使うという用途だ。マイドキュメントの容量を増やしたり共有したりといった目的ではなく、純粋に「バックアップストレージ」としての用途である。昔のテープメディアの代替にあたる使い方だ。直接アクセスする機会がないだけに、管理者を除き、従業員がその存在を意識することはほとんどない。

 各ベンダーに聞く限りでは、前者のファイルサーバ用途のほうが、後者のバックアップ用途よりもわずかに利用者の比率が高いようなのだが、この2つを足すとNASの用途のほとんどを占めていることは間違いない。また、こうした2つの使い道ごとにNASのラインアップが分かれているわけではなく、基本的に共通だ。

 この2つの使い方において、要求される仕様の違いを強いて挙げるなら、前者では同時アクセス数が多くなるので、それだけ性能の高いCPUが必要になる。後者は時間をずらしてバックアップすれば、同時接続数はそれほど重要ではない(どちらかというと業務時間外に稼働する格好になるので、トラフィックの混雑に当たらなくて済む)。これについては次々回、機種選定の項で詳しく述べることにしたい。

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