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» 2015年01月29日 08時30分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「他店価格よりも高ければお知らせください」は一石二鳥のワザ? (1/2)

家電量販店には「地域最大級」「他店価格よりも高ければお知らせください」「オープン価格」など、分かるようで分からないような言葉が存在する。こうした曖昧な表現はなぜ生まれて定着したのだろうか。

[牧ノブユキ,ITmedia]

「地域最大級」であって「地域最大」ではない謎

 家電量販店などで大型店がオープンした際、決まったように使われるのが「地域最大級」という表現だ。「最大級」以外にも「最大クラス」など、類似表現はいくつかあるが、なぜ「地域最大」と胸を張って言わずに、わざわざ「級」や「クラス」などといった曖昧な表現を末尾につけるのか、考えてみれば不思議な話である。

 かつては断定表現も珍しくなかっただけに、いつ頃を境に今のようになったのだろうか。今回はこうした「不自然な日本語」の謎について迫ってみたい。

 同じジャンルの販売店が、同じ商圏内で営業するということは、必然的に顧客の奪い合いが発生する。価格やサービスといった営業努力による表向きの競争とは別に、利用者の目に見えない裏でも、彼らは日夜激しい争いを繰り広げている。

 その1つが、相手の広告や店頭表現に対するクレームだ。過剰なセールストークや文言に対してイチャモンをつけ、相手を萎縮させるわけである。実際に目に余るような表現もあれば、揚げ足取りのツッコミまで、その内容はさまざまだが、こうした行為の積み重ねが「ちゃんと目を光らせてますよ」というライバル店へのけん制となる。関西で言うところの「メンチの切り合い」を、客から見えないところで行っているのだ。

景品表示法が生み出した「地域最大級」

 こうした中で、特にライバル店に対してツッコミを入れやすいのが、広告に対するクレームである。理由は主に2つある。1つは証拠をつかみやすいこと。ライバル店の店員が悪口を言っていたというレベルであれば立証は困難だが、ライバル店のチラシの現物が手元にあれば立派な証拠になり、相手が言い逃れしにくいからだ。

 もう1つは、景品表示法という法律の存在だ。広告における表現は、不当景品類及び不当表示防止法(一般的に言うところの「景品表示法」)という法律で厳格に定められており、第三者でも逸脱しているか否かが容易に判断できるため、ツッコミが入れやすい。例えば「地域最大」をアピールするのであれば、それが坪数なのか取り扱い製品数なのか、具体的に明示しなければ、不当表示とみなされるわけだ。

 ライバル店の広告に不当表示とおぼしき内容が見つかった場合、景品表示法を管轄する消費者庁に苦情を申し立てることができる。景品表示法のルールでは、不当表示でないことを15日以内に合理的な根拠を添えて証明しなければならず、たとえ証明できたとしても相当な負担になる。

 万一、不当表示であると判断されてしまえば、総理大臣名で事業者に対して措置命令が出されるうえ、罰金や懲役などの罰則も用意されているので、一店舗の勇み足では済まされなくなる。萎縮効果は絶大だ。

 とはいえ、販売店としては可能な限り顧客に対して自店をアピールしたいのは当然で、そうした状況に対応するために生み出されたのが、冒頭に述べた「最大級」や「最大クラス」といった曖昧表現だ。

 これらは表現に幅があるため、必ずしも地域最大でなくても不当表示にはなりにくい。そもそもまだオープンしていない店舗なのだから、売上高や入店者数といった実績があるわけでもなく、地域最大をアピールするパラメーターには限りがあるわけだが、そうした店舗でも過去の新店の傾向と擦り合わせて地域最大に匹敵すると予測したのなら、特におとがめはない。

 もし、本当に坪数が地域一であるならば、堂々と「フロア面積地域最大」などと書けばよいが、相手が詳細なフロアの広さを公開しておらず比較が困難であるなど、ちょっとでも曖昧な要素があるのなら、「級」をつけておいたほうが安心というわけだ。

 そもそも「級」がついてもつかなくても、利用者に与える印象はそれほど大きく変わらず、規模の大きさをアピールするには有効である。これについてはライバル店も意見が一致するところであり、お互いに「地域最大級」を名乗っておくことで、どちらも幸せに営業を営めるというわけだ。いわゆる共存共栄である。

 こうした事情がここ10年ほどですっかり常識となって知れ渡ったことにより、「地域最大級」の店はゴロゴロあるが、「地域最大」を名乗る店はその地域に一店もないという、おかしな状況が全国至るところに出現しつつある。

 先の景品表示法において、不当表示でないことを証明する責任が事業者側に課されるようになったのが2003年であるため、おおむねそれがきっかけだ。事なかれ主義の極致と言えばその通りだが、誰も好き好んで火中の栗(くり)を拾いたくないわけで、不確定要素があればこうした表現にとどめておくのは、ビジネスを進めるうえで当然だろう。

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