「他店価格よりも高ければお知らせください」は一石二鳥のワザ?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2015年01月29日 08時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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「他店価格よりも高ければお知らせください」は一石二鳥のワザ

 なお、これとよく似た事例として、店頭の販売価格の表示における「他店対抗の値引き合戦」がある。最近よく見かける「他店の店頭価格よりも高ければお知らせください」というやつだ。

 先に述べた景品表示法の関係で、地域最安値をアピールするのであれば、その具体的な根拠を明示しなくてはならないわけだが、ライバル店に陳列されている個々の製品について手間をかけて調査することは不可能で、しかも価格は刻々と変わっていく。ライバル店がオンラインで個別の店舗売価を開示しているわけはなく、自前で覆面調査に行かなくてはならないわけで、どう考えても手間とは見合わない。

 であれば発想を変えて、「情報さえあれば他店よりも安くできます」といった主張に切り替えれば、実地調査に行く手間は最小限にとどめられ、しかも地域で最も安いことを暗にアピールできる。まさに一石二鳥ということで、こうした表現が定着して今に至っている。

 先ほどのフロア坪数の場合、ライバル店より狭かったからといって増床するわけにもいかないが、販売価格であれば自己決済で引き下げるだけで済むので、こうした表示も通用してしまうというわけだ。

「オープン価格」がもたらした価格比較サイトの隆盛

 最後に、販売店ではなく、メーカー側の同様の事例を紹介しよう。ここ10〜20年で一気に広まった「オープン価格」なる用語がそれだ。

 PC周辺機器のように価格変化が激しい業界では、ライバルメーカーの値下げに対抗して希望小売価格を頻繁に変える必要があり、かつては定期的にアナウンスを行ったうえでパッケージやカタログの表示を刷新していた。

 しかし、このシステムでは毎回のアナウンスに莫大な労力を必要とするほか、希望小売価格の何割という形で卸価格を決めているケースでは、価格を変えるたびに卸価格も変更になり、在庫に対する補てん処理に忙殺されるという状況に陥っていた。

 そもそも価格改定のスピードに比べて製品の回転率はそれほど早くなく、同じ製品が数カ月も売り場に残っているのもざらなので、パッケージの上から訂正シールを貼ったところにまた改訂が発生して、シールを二重三重に貼らなくてはいけない事態が発生していた。カタログやチラシも同様で、そうそうランニングチェンジで小気味よく入れ替わるわけではない。

 こうしたことから、メーカー希望小売価格を定めない「オープン価格」という表示方法が生まれ、販売店への卸価格だけを調整するようになったというのが、これまでの経緯だ。景品表示法とは直接関係はないが、価格の二重表示など、ユーザーの不利益を防ぐ意味合いも含まれているので、発想としては先のケースとも非常に近い。

 ただし価格を一切表示しないと、ユーザーからすると他の製品と比較しにくいという欠点がある。こうしたことから、メーカーが新製品を発表する際のリリースなどでは、参考価格として直販サイトの売価を表示するのが、いまや通例になりつつある。

 また、ユーザーの間で実売価格を知りたいという声が高まりを見せた結果、いわゆる価格比較サイトの台頭につながったわけで、ネットの普及とともにこうした事情が複雑に絡み合って新たな商習慣が生まれて現在の形につながったのは、今となっては実に興味深い出来事だったと振り返ることができる。

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