Windows XPのサポート終了が目前に迫ってきた。2014年4月9日のサポート終了に向け、PCメーカーや販売店は買い替えのアピールに躍起になっており、消費税の値上げという要因も加味されて、実際にPCは飛ぶように売れている。すでに店頭、通販を問わず品切れも発生しているほか、BTOモデルでは注文しても到着が1〜2カ月先というケースはザラだ。またDSP版のWindows 7も好調な売れ行きを見せている。
その一方、サポート終了後のリスクを承知で、Windows XPをそのまま使い続けようとしている人もまた少数派ながら存在している。これはWindows XPでしか動作しない特殊なソフトウェアが業務に必要だったり、移行のコストが捻出できないといった「使い続けたくないが、使わざるを得ない」という人ばかりではないだろう。
IT系の製品やサービスでは、こうした呼びかけをほったらかしにしておいたところ、思いがけない優待サービスが用意されたり、あるいは期限そのものが延期になったりと、先に何らかの手を打った人がかえって損になるケースも少なくない。それゆえ、「粘れるだけ粘ったほうが賢い」とする考え方も一部で根強くあり、スムーズな移行にあたっての障害になっているのだ。
もっとも、これらの移行を呼びかけるコストはメーカー、つまりMicrosoftが中心に負担しているわけで、その負担は同社の製品やサービスのコストに転嫁され、最終的にユーザーに跳ね返ってくる。移行済みのユーザーにもそうでないユーザーにも負担がかかるため、そうした意味でもいたずらに引き延ばされるのは、移行済みのユーザーにとっても迷惑な話ではある。早く移行できれば、それだけ新しい製品やサービスにリソースが回せるのは明らかだからだ。
そして、これと同じ思いをしているのが、今なおWindows XP対応を強いられているPC周辺機器メーカーや、サードパーティのソフトウェアベンダーである。彼らは今回の延長サポート終了によって、新製品への乗り換えはもちろん、Windows XPをサポートする負荷がなくなることに期待をしており、それがスムーズに行われないとなると、今後の製品開発に悪影響を及ぼしかねない。
今回は、Windows XPを使い続けた場合のリスクといった話ではなく、PC周辺機器メーカーを例に、社内で費やされている動作検証やサポートにまつわるコストについて見ていこう。
1つのPC周辺機器が世に出るまでには、企画に始まり、開発、試作、動作検証、資材調達、製造、販売などのプロセスがあり、その後の在庫管理やサポートといったプロセスも含めて、社内のさまざまな部署が携わっている。
こうした1つの製品にまつわる稼働のうち最も割合が高いのは、動作検証およびサポートだとよく言われる。中には全リソースの6〜7割を動作検証とサポート関連の作業が占めているというケースもあり、その割合は圧倒的だ。
もしこれが非ITの製品、例えば白物家電であれば、動作検証およびサポートの工数はそれほど多くはない。例えば室温の変化による動作への影響や、長時間稼働させた場合の耐久性など、検証すべき項目はあるにはあるが、数は決して多くなく、チェックリストもほぼ使い回しで済む。また、量産の段階でしっかりチェックしておけば、発売後に再度検証が必要になることはまずないといっていい。
ところがPC周辺機器の場合は、ソフトウェアのバージョンアップの度にこうした検証が必要になる。たとえ自社でバージョンアップを行わなくとも、接続先となる機器がバージョンアップすれば、いや応なしに動作検証の作業が発生するのだ。しかも周辺機器の場合、本体のファームウェア、PC側のドライバ、PC側のユーティリティ、PC側のOSといった複数の要素が組み合わさって初めて動作するので、そのうち1つがバージョンアップすると、すべての動作検証をやり直す必要が出てくる。
仮に「本体のファームウェア」「ドライバ」「PC側のユーティリティ」「PC側のOS」のそれぞれに3つのバージョンがあった場合、3×3×3×3で81通りの組み合わせにおいて、動作検証を行なう必要がある。もし接続先の機器にも同様の組み合わせがあり、それと接続しての動作検証が必要であれば、81×81で6561通りもの組み合わせがあるわけだ。しかもその範囲は、機器が備えるすべての機能についてである。考えただけでも気が遠くなる話だ。
もちろんこれは組み合わせの多さを例として述べただけで、現実的にこれだけの数の動作検証が行われているわけではない。多くのメーカーでは自社で決定できる範囲内で、動作検証の対象を減らして対応している。先ほどの例で言うと、ファームウェアのバージョンは直近の2つのバージョンのみ、PC側にインストールするドライバとユーティリティは最新版のみに絞り込むことで、81通りもあった組み合わせは2×1×1×3=6通りにまで激減する。
またチェックするのは基本機能のみで、細かい機能についてはノーチェックというケースも決して珍しくはない。あらゆる環境で動作検証を行い、それに見合ったコストを製品の価格に上乗せするのは、現在の価格ではとても不可能だ。そのため、検証を行う条件は極力絞り、工数を減らす必要がある。
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