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» 2015年08月24日 06時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「大量導入で好調」は真実なのか? メーカーの過剰在庫を疑う (1/2)

IT系製品のメーカーが、ある法人に自社製品を大量導入したと、誇らしげにアピールすることがある。しかしこの対象が「私立学校」で、かつ導入のタイミングが「もうすぐ決算のタイミング」であれば、これは別の意味合いを持っている可能性もあるのだとか。

[牧ノブユキ,ITmedia]
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 鳴り物入りで投入した新製品がさっぱり売れず、倉庫には山のような在庫や仕掛品が積み上がる……。メーカーにとってはよくある話だ。

 仕入れ計画にミスがあって過剰に発注してしまったり、あるいはライバルメーカーがぶつけてきた製品に主役の座を奪われ、これまで飛ぶように売れていた製品がガクッと売れなくなったり、などの理由で在庫の山が出来上がる。

 値下げなどの営業施策によって過剰分のストックを処分できたり、また新規発注をストップすることで自然減へと向かう可能性があるのなら、それほど大きな問題には発展しない。

 しかし八方手を尽くしても在庫が減らないとなると、社内で顔が青ざめるスタッフが出てくる。キャッシュフローに影響が出るのはもちろんのこと、保管のための倉庫代もばかにならない。また進化のスピードが速いIT系製品の場合、放っておくと型落ちになってしまう危険もある。

 こうした場合、どのような対策を取るべきだろうか。真っ先に思い付くのは現金問屋への持ち込みだ。たとえ原価を割って買いたたかれたとしても、現金化できれば支払いに充てることができるので、キャッシュフローの心配は減る。

 しかし廃盤が決まっている製品ならまだしも、店頭に在庫が残っている製品をこの方法で処分してしまうと、市場価格を破壊することになり、事情を知った既存販売店から差額分の補填(ほてん)を要求されかねない。そうなると傷口はさらに広がってしまう。ゆえにこの方法は、少なくとも現行製品ではご法度だ。

 このように追い詰められたIT系製品のメーカーが、現行製品の在庫を減らすために好んで採る「一石二鳥」の方法がある。それは「私立学校への一括導入」だ。なぜ学校なのか、そしてなぜ私学なのか。そして何よりも、メーカー側の身勝手な意向を学校側がくんでくれるものなのだろうか。今回はこうした取引が成立する裏事情を見ていこう。

「社内への一括導入」のプラスとマイナス

 実は私立学校への一括導入という奥の手を繰り出す前に、もう1つ方法がある。それは「社内への一括導入」だ。営業マンへの一括配布、事務職の社員に限定しての導入など形はさまざまだが、社内で使用することによって帳簿上の在庫を、事務用品費もしくは消耗品費へと振り替えるわけである。

 懸案になっている製品が社内使用に値する機材であることが絶対条件だが、手続きとしては社内で稟議(りんぎ)を回すだけで済むので、メーカーの社内ではよく使われる方法の1つである。

 ついでに言うならば、社内使用に振り替えられた製品は、たとえ型落ち品であっても社員である以上クレームはつけにくいし、パッケージや付属品などに不備があっても問題ない。製品そのものに欠点がある場合も同様だ。さらに自社でも使っていると対外的にアピールすることで、現場への導入例の1つとして、販促上役立つという利点もある。

 ただ、これまで販売好調をPRしていた製品をこうして「社内へ一括導入」してしまうと、実は在庫がダブついていたことが外部にバレてしまう。もし品薄商法で拡販を図っていたりすると、品薄と言いつつ実は品薄でなかったことが明らかになってしまうというわけだ。さすがにそうなると面子の問題があるし、営業担当者が取引先から責められたり、株主総会などで追求されることも懸念される。

 また、社内使用でどれだけの台数がはけるかは会社の規模に依存するので、思った通りの在庫が減るわけではない。また、過剰在庫が発生する度にこの方法を繰り返していると、社内が自社製品であふれ返ることになり、仕入れの担当者は無能の烙印(らくいん)を押されてしまう。それゆえ、よほど条件がそろった場合を除き、効果の程は未知数だ。

メリットが多い「学校への大量導入」

 ここで登場するワザが、さきほどの「私立学校への大量導入」である。もちろん通常価格で導入するわけではなく、タダもしくはそれに準ずる条件で「提供」するというのが実態だ。タダで提供ということで、メーカー側が損をしているように見えるが、実はここにしたたかな計算がある。

 企業ではなく学校に対して製品を提供するメリットは幾つもある。1つはボリュームだ。生徒1人に対して1台を配布するとなると、少なくとも数百台、多ければ千台を超える台数が一気にはける。在庫処分にはもってこいというわけだ。系列の付属校にまで範囲を広げれば、さらに多くの台数をさばける可能性もある。

 学年が変わり、新入生が入ってくれば、さらに多くの台数がはける可能性もあり、もしそこで有償に切り替えることができれば、コストを回収できる可能性も残されている。

 またこうした導入例は、メーカーのサイトやカタログなどで「導入事例」として紹介されることが多いわけだが、文教に対する導入事例は、企業に対する導入事例に比べて価値があるものと見られやすい。導入先が一般企業だと、実は取引先であるなど、何らかのつながりの存在が疑われやすいが、導入先が学校の場合、そうした疑いがかけられることは少ないので、好都合というわけだ。

 実際にはその学校のOBである社員が間に入って調整していたりするので、むしろ確固としたつながりがあるケースも存在するわけだが、それが露見することはまずない。

 またこうした「提供」を特定の企業に対して行うと、通常価格で購入した別の企業を怒らせてしまう危険もあるが、学校であれば外部からクレームが寄せられる可能性は低い。病院など公共性が高い団体もこれと似た傾向があるが、やはり学校は別格だ。

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