ではなぜ「公立」ではなく「私立」が選ばれるのか。
実はここにも必然性がある。まず1つは、その学校にとっても対外的なアピールになることだ。最新のIT機器を学校が生徒に配布するとなると、将来の入学希望者となり得る子供達に「あの学校に行けば得をしそう」「タダで機器がもらえるかも」とプラスの印象を植え付けられるし、親に対してもアピールできる。その地域で併願の対象となるライバル校との差異化要因としても有効だ。
公立の場合、こうした機器の導入は学校が単独で決められるわけではなく、教育委員会が主導し、長期的な計画に沿って進められる。「地域のモデル校」など特殊なケースを除いて、特定の一校だけが恩恵を被ることはNGであり、仮にOBである社員がいたとしても、いきなり売り込みに来て採用してもらえる可能性は皆無である。無償提供などは管理の観点からも全くの逆効果だ。
その点、私立であれば決済のプロセスは学校の運営母体である法人の中で完結しており、場合によっては校長の決済だけで済む場合もある。受験希望者を募るために1年中アピール要素を探している私立学校からすると、最新のIT機器を一括導入できるのはメリットだらけだ。
メーカーからしても、実際にきちんと使ってもらえるようレクチャーの必要があるとはいえ、それがうまくいけば製品の導入事例としてサイトやカタログなどでアピールできるので、双方ともにWin-Winというわけだ。
裏を返せば、メーカーがプレスリリースなどで私立学校への大量導入をアピールしている場合、それは単なる過剰在庫処分を体よく言い換えているだけの可能性がある(もちろん、そうでない場合もあるが)。単純に「文教でこれだけ大量に導入されるということは、さぞかし信頼性の高い製品に違いない」などと思ってはいけない。競合製品と比較して選定され、かつ入札などのプロセスを経て導入に至った結果なのか、疑わしいからだ。
メーカーによる過剰在庫の処分方法としては、このほかにもレアケースとして、製品カテゴリが直接バッティングしないメーカー同士が、在庫を物々交換することがある。
とある卸業者の倉庫に、A社とB社の製品が大量に売れ残っていて、両社ともに返品が難しいケースがあるとする。こうした場合、その卸業者が仲介する形で、通常は取引口座を持たないA社とB社が、お互いの在庫を社内使用するために仕入れるわけだ。
取引上は全く同額の代金支払が発生することもあるが、実際には物々交換に近い取引が行われることになる。
以上、幾つかのケースを見てきたが、こうした過剰在庫の処分は、決算時の棚卸しの手間を減らし、また帳簿在庫を来期に持ち越さないために行われるので、タイミング的にはメーカーの決算前に行われることがほとんどだ。
それゆえ、メーカーが社内への全面導入や、私学への一括導入を誇らしげにプレスリリースで発表した際、そのメーカーの決算時期をチェックすれば、それらが行われた裏事情がおぼろげに見えてくるかもしれない。最近、あの製品の自社利用を発表したあのメーカーも実は……、ということもあるだろう。
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