毎年春から夏にかけては、家電量販店各社から、決算をはじめとするさまざまな発表が行われる時期だ。売上高や営業利益が前期比で減少しているのは多くの量販店で同じ傾向だが、その割合は大きく異なる。営業利益を大きく下げた量販店もあれば、微減と呼べるレベルにとどめて健闘している場合もあるなど、同じ「減収減益」でも差は大きい。
また経常利益を見ても、家電量販店ごとにその減少率は違う。そもそも家電量販系は、マーケットの縮小を見越した別事業への進出という新しい流れがあるものの、取り扱っている商材はどこもおおむね同じであり、決算報告書を見ていても「XP特需の反動」「地デジ買い替え特需の反動」「エコポイント特需の反動」など、各社似たような減収要因を挙げていたりする。
こうした中、同じ減収減益でもその内容に大きな差がつくのは、やはり量販店そのものの戦略や取り組みの姿勢に違いがあると見るべきだ。
さて、実はこうした決算の明暗は、あるイベントの活気に比例していると、その量販店に製品を卸すメーカー関係者の間でささやかれている。それは、メーカーが各量販店に対して行なう製品勉強会だ。今回は、その存在自体があまり公に語られることのない、メーカー主催の製品勉強会について、その実態を見ていこう。
このメーカー主催の製品勉強会は、家電量販店のスタッフを対象に、自社の製品をより深く知ってもらうために、メーカーが不定期に実施しているものだ。量販店にとっても、製品の知識を身につけるまたとない機会であり、主に閉店後の時間を割き、メーカーのスタッフを招いてこうした場を設けている。
製品が主体になることもあれば、新しい規格などが登場した際にその全体像を俯瞰(ふかん)するために行われる場合もあるなど、スタイルはさまざまだが、メーカーの本社から開発に携わるスタッフが招かれ、質疑応答の時間が設けられたりと、かなり本格的な研修の形を取ることも多い。
ここで「家電量販店に長年勤務しているけど、そんなのは見たことも聞いたこともない」という人もいるだろう。理由は簡単、そもそも大前提としてそのメーカーとその家電量販店との間で取引が多く、かつ友好的に製品を販売してもらっており、また勉強会の主催にあたって本部のバイヤーが協力的であるといった条件がそろわなければ、開催自体が難しいからだ。
メーカーの開発スタッフを招くとなると、タイミングがそもそも合わないことも多く、これに加えて各量販店からのスタッフの出席率が相応に高くなければ、継続して開催しようという話にならない。間で取り仕切っている営業マンのやる気の有無も大きく影響するので、こうした条件に当てはまらない量販店は、勉強会の話題さえ出ないこともある。
話を本筋に戻そう。こうした勉強会の開催が決まると、本部から各店舗の担当スタッフに出席するよう指示が出される。
しかし、その多くは営業時間外に行われるので、何かと口実をつけて欠席しようとするスタッフもいれば、出席はするが居眠りに終始するスタッフも少なくない。一方、「この勉強会で知識を1つでも身につけてやろう」という熱意を持ったスタッフも多く、勉強会ごとにまったく雰囲気が異なることもしばしばだ。
もっとも、こうした雰囲気の違いはスタッフ個々人に由来するのではなく、彼らが属する家電量販店に由来しているという見方が、多くのメーカー担当者間で一致している。
つまり、ある家電量販店での勉強会は、どのスタッフも気迫がみなぎっており、質疑応答でもメーカー本社から来た開発スタッフを質問攻めにしたり、会が終わってからも個別に質問をしたり、という光景が毎回のように見られる一方、別の家電量販店では居眠りしているスタッフが大半で、質疑応答で挙手すらない、といった光景がほとんどといった具合だ。人というよりも組織の空気のほうが、より大きく影響しているわけである。
ここで冒頭の話に戻るわけだが、この勉強会での活気は、昨今の家電量販店の決算内容と一致しているというのがおおかたの見方だ。つまり、どのスタッフも熱意がある家電量販店は昨今の決算内容もおおむね好調であり、逆に販売員からほとんど質問が出ず居眠りも常態化している家電量販店は、決算内容の悪化が著しい。
ここ1〜2年で始まった話ではまったくないので、過去のメーカーに勤務していた人で、こうした勉強会に参加したことがある人は、「あー、ホントそうだよねぇ」と納得できるところは多いはずだ。
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