インタビュー
» 2015年11月05日 11時30分 UPDATE

漫画家・山田胡瓜×コンピュータ将棋開発者・山本一成:人工知能が人間から“奪えない”もの――「未来を描く×作る」対談(後編) (1/3)

漫画家の山田胡瓜さんと、将棋プログラム開発者の山本一成さん。お二人の対談後編は、人間と機械の関わり方にさらに踏み込みます。

[杉本吏,ITmedia]

 テクノロジーをテーマに日常風景を描く「バイナリ畑でつかまえて」を好評連載中の漫画家・山田胡瓜さんと、最強と目されるコンピュータ将棋プログラム「Ponanza」の開発に心血を注ぐプログラマー、山本一成さん。未来を描くストーリーの作り方から、人類と人工知能の付き合い方までを語った前編に引き続き、後編ではテクノロジーの負の側面や、「人類に残された領域」についても話が広がります。

(聞き手・構成:杉本吏)

【前編】指先から生まれる、陳腐化しない未来――漫画家・山田胡瓜×コンピュータ将棋開発者・山本一成

山田胡瓜(やまだ・きゅうり)

山田胡瓜

漫画家。2012年、「勉強ロック」でアフタヌーン四季大賞受賞。元ITmedia記者としての経験を基に、テクノロジーによって揺れ動く人間の心の機微を描いた「バイナリ畑でつかまえて」をITmedia PC USERにて連載中。Kindle版はAmazonコンピュータ・ITランキングで1位を獲得した。2015年11月、週刊少年チャンピオンにて初の長編作品となる「AIの遺電子」を連載開始。


山本一成(やまもと・いっせい)

山本一成

プログラマー。2013年、コンピュータ将棋プログラム「Ponanza」の開発者として第2回将棋電王戦に出場し、人間のプロ棋士相手に将棋プログラムとして初の勝利を収める。翌2014年、2015年にも出場し、いずれもプロ棋士に勝利。公の場でプロに3度の土を付けた唯一の存在となる。2015年、第25回世界コンピュータ将棋選手権にて優勝し、名実ともに最強の将棋プログラム開発者として知られている。


告知

山田胡瓜新連載「AIの遺電子」

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山田胡瓜先生の新連載「AI(アイ)の遺電子」(第1話)が、週刊少年チャンピオン11月5日(木)発売号から掲載されます。ヒューマノイドの存在が一般化し、人間に溶け込んで社会を形成している近未来。ヒューマノイドを治す医者・須堂を主人公に描く物語をぜひご覧ください。(ITmediaは山田胡瓜先生と「AIの遺電子」を全力で応援しています!!!)


「人智を超えた強さ」を生み出すプロセス

――人間のプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムの戦いは、2015年までの団体戦形式に替わって、来年からはトーナメントを勝ち抜いた「1人の棋士」と「1つのプログラム」が戦う頂上決戦形式となることが発表されています。山本さんは今は大会前(※1)の追い込み時ですね。

※1)コンピュータ側の代表を決める「第3回将棋電王トーナメント」(2015年11月21〜23日)

ts_denou.jpg 第3回将棋電王トーナメント

山本 はい。最近は一日中Ponanzaのコードを書いています。あと残り1カ月くらいですね。もっと強くなってくれるとうれしいんですけど。

胡瓜 そもそも強くなったというのはどういった形で分かるんですか?

山本 それはけっこう単純で、過去のPonanzaと新しいPonanzaとで、3000試合くらい自己対戦をさせて勝率を見るんです。

胡瓜 それってもう、山本さんご自身が見ても(差が)分からない強さなんですよね?

山本 とっくに分からないですね(笑)。

胡瓜 それがすごいなって。そのレベルにまでなると当たり前のことかもしれないけど。

山本 もう、何をしたら強くなるか全然分からないんですよ。もちろん、自分なりに仮説を立てていろいろ試すんですけど、因果が謎の部分もかなりあります。

 将棋プログラムって時間を掛けてコードを書いても強くならないことが多くて、ひどいときは半年くらいほとんど伸びないこともある。その上、一度機械学習を始めると、結果が出るのが1カ月後くらいなんですよね。それがつらい。ときには漫画のように「作ったらできる」ということがうらやましく思えることもあります(笑)。

「ペン画だけはアナログ」の理由

――作っても強くならない中で、山本さんが開発を続けられるモチベーションというのはどこにあるのでしょう?

山本 うーん……やっぱり「勝負」という部分なんでしょうね、大きいのは。自分のことはかなりの負けず嫌いだと思っていますし。胡瓜さんは「今日は漫画描きたくないな」っていうときはありませんか?

胡瓜 あるんですけど、それって何かがうまくいっていないときなんですよね。理由もなく描きたくなくなるってことはあまりない。

山本 うまくいかないっていうのは、ネームができないとか?

胡瓜 ネームができないとか、思ったように絵が描けないとか、自分の力不足にいらいらするとき。そういうときにストレスがたまってくる。うまくいってるときはいつまででもやっていたい。

山本 自分の中では「一回終わってるお話」(ストーリーがまとまっている話)を、ものすごく時間を掛けてじっくりと描くわけですよね。そういう部分に飽きたりってことはないですか?

胡瓜 そうですね、確かに「一回もう下描きしてるのにな」とかって思うことはあります。でもそれぞれの作業に楽しみどころみたいなのがあって、「下描きの線」と「ペン入れの線」ってやっぱり違うものが上がってくるんで、「あーペン入れで良い線描けた」とか「下描きは良かったのに原稿はダメだった」とか、そういうことがよくあって。

山本 漫画はデジタル環境で描かれているんですか?

胡瓜 ペン画だけアナログです。それをスキャナで取り込んで、そのあとデジタルで仕上げ作業をする。これまでは1人でやってたんですけど、週刊連載を始めるに当たってさすがにアシスタントさんを入れないと回らないので、今は自分とアシスタントさんとお互い在宅で、ネットワーク上で共有フォルダを作って作業するというやり方を始めてます。

 僕がアナログで線を描くのは、線画って、ミスというか、偶然があるんですよね。にじんじゃうとか、線がかすれちゃうとか。それをデジタルでやってしまうと、狙った通りの線しか出ない。完璧に水平な線とか。完璧なものが完璧に出ちゃうと、つまんないんですよね。だから失敗がむしろほしいというか。ほんとに進化しちゃうと、そういうものも機械が再現しちゃうのかもしれないけど、今はそうじゃないから。

山本 なるほどー。でも実は“ゆらぐ”のって得意ですよ、コンピュータは。人間の方が苦手かも。人間って完全にランダムな出力って難しいですよね。確率とかランダムとか扱うのがとても下手です。

胡瓜 完全なランダムであれば、機械の方が絶対得意ですよね。突き詰めていくようなものでは機械に勝てないんだけど、そこまでいかない「中途半端なところ」に人間の生きる道があるのかも。

 やっぱりね、いくら失敗がほしいと言ったって、ペンがガタガタだったらまずいわけですよ。でも完璧に直線でも味気ない。そのあんばいみたいなのがあって、それが分かるという意味では、読む人と同じ文脈で生きてる人間が、今のところは強いと思うんです。

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