Samsungのスマート冷蔵庫に見る「データと引き換えに何かを得る」時代とは?

» 2016年04月18日 06時00分 公開
[橋本沙織ITmedia]

 ネットにつながる未来の家電として、「スマート家電」という言葉が世に出て久しい。洗濯機や電子レンジといった白物家電から、体組織計などのヘルスケア機器まで、スマート家電はスマホの普及とともに進化を遂げてきた。

 今回取り上げる「冷蔵庫」もそのうちの1つ。しかも、将来的には最新の冷蔵庫が「無料」で手に入れられるようになるかもしれないといわれているのだ。スマート家電の進化、その最新の状況をお伝えする。

SamsungのFamily Hub

Samsungの「スマート冷蔵庫」

 2016年1月に、世界最大の家電見本市であるCESでSamsung USAが発表した「Family Hub」は、いわゆる“スマート冷蔵庫”だ。Wi-Fiでネットワーク接続し、ドア部分には21.5型というかなり大きなタッチディスプレイを搭載する。

 このFamily Hubは、内蔵カメラにより庫内の状況をチェックする機能や、Amazonの音声認識コンシェルジュサービス「Alexa」、さらに同社がMaster Cardと提携して新しく始める日用品配達サービスを通じて、食料品の買い物ができる機能も搭載されている。

 冷蔵庫内の食材の在庫状況から、オススメのレシピを提案し、ときには「あと一品買い足せば作れる料理」の提案も行う。また、定期購買や自動決算で日々の買い物の負担を減らすことも考えられる。

ネットにつながったドア上のディスプレイがさまざまなサービスを提供する

最高の広告の出し時、出し場所

 食料品の買い物というのは、気に入った商品があればそれを買い続ける人が多い。特にスマート冷蔵庫の話題が盛り上がっている米国の国民の特徴として、同じ商品を繰り返し購入する傾向があるという。ユーザーからすれば買い忘れを防ぐことにつながり、また配達までしてくれるのであればさらに手間が省ける。

 例えば、ハインツのトマトケチャップの空き容器を捨てるタイミングで、冷蔵庫に50セント引きのクーポンが表示されれば、多くの人はクーポンを使ってハインツのケチャップを購入するだろう。メーカーはユーザーが求めるタイミングで広告を表示することで「リピート買い」の確度を高められる。

 では、もしもそのタイミングで、競合の「デルモンテ」からサンプルのオファーがあればどうか。アメリカにおけるケチャップのトップシェアは60%のハインツだが、もしかしたらデルモンテはその牙城を崩すことができるかもしれない。つまり、競合他社にとっても「最高の広告の出し時、出し場所」といえる。

 米国民が1カ月に掛ける食費はおよそ650億ドル。この巨大市場のビッグデータをマーケティングに活用しない手はない。ユーザーの嗜好やライフスタイルをスマート家電を通じて分析することで、それまで見落としていた需要を発見したり、新しいビジネスを生み出したりする可能性もあるのだ。

 日本の「クックパッド」やアメリカのナビゲーションアプリ「Waze」のように、ユーザーから集めたデータが成功の鍵となったサービスの事例は既に幾つもある。果たして、スマート冷蔵庫はその後に続くことができるだろうか。

「データと引き換えに何かを得る」時代

 スマート家電を中心としたスマートホーム構想は、Googleの「Nest」やAppleの「HomeKit」に代表される、家と家電を丸ごとWi-Fiでつなげて一括管理するというものだ。その狙いの1つは、言うまでもなくユーザーの消費動向を含む生活スタイルをいち早く把握し、マーケティングに利用することだ。「火事で家が全焼したら、次の瞬間には自分のタイムライン上に消火器の広告が表示される」なんてジョークが存在するのも頷ける。

 ユーザーからのデータと引き換えに企業は広告を表示させ、その結果、そちらで効率的にモノが売れるために、消費者は冷蔵庫を無料で手に入れることができる――SNSなどに見られるフリーミアムな収益モデルが、ハードウェアである冷蔵庫にも応用されようとしている。

 われわれの個人情報に関する意識も変化している中、このような「データと引き換えに何かを得る」という流れが、ソフトだけでなく広くハードの世界にも反映されていくのだろう。消費にまつわるデータを提供する代わりに冷蔵庫を無料で手に入れる、これが新しいスタンダードになる日が近い将来訪れるかもしれない。

ライター

執筆:橋本沙織、編集:岡徳之(Livit Tokyo)

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