林信行のTouch Bar搭載「MacBook Pro」徹底レビューAppleが描いた未来(1/5 ページ)

» 2016年11月18日 00時00分 公開
[林信行ITmedia]

新型MacBook Proを4つのポイントから徹底レビュー

 フルモデルチェンジを果たした待望のMacBook Proがいよいよ発売される。MacBook Proと言えば、カメラマン、映像クリエイター、ミュージシャンといったクリエイターの間では定番のパソコン。こうした人たちは、使っているマシンが不調になったり、性能に不満を感じていたら、本レビューの評価に関わらず新機種に乗り換えるだろう。そういう意味では、Appleはパソコン業界では幸運な存在だ。今回の新モデルでは、そうした状況に甘んじない“攻めの姿勢”のAppleを久々に見た。

林信行氏がTouch Bar搭載MacBook Proをレビュー

 多くのMacBook Proユーザーが、他社製品への乗り換えを考えず、次もこの製品を指名買いするからと見越してか、パソコン業界の進歩を1〜2年早回しするかのような攻めの仕様を採用している。そんな新型MacBook Proだが、本レビューでは特に4つのポイントに注目した。

 1つ目は、いつもの仕事をこなすPC(アプリ実行機)として、十分な性能アップが計られたのか、という点だ。

 2つ目は、ファンクションキーに替わって採用されたマルチタッチ対応のTouch Barや、MacBookと同仕様になったキーボード、そして驚くほど巨大化したトラックパッドといった操作系の使い勝手。

 3つ目は、デバイスの接続方法がUSB Type-Cの互換端子を使った高速インタフェース、Thunderbolt 3と、ヘッドフォン端子の2種類だけになり、電源端子はおろか、多くの周辺機器の接続で主流なUSB Type-A端子、mini DisplayPortやSDメモリーカードスロットまでなくなってしまった外部機器の接続環境をどう捉えるか、という点だ。

 そして4つ目は、これらすべてを総合して、気持ちよく使える道具に仕上がっているかだ。

 先に結論を書くと、新MacBook Proは、かなりユーザーを選ぶマシンになっていると思う。人によってはすんなりと何の問題もなく移行ができるが、人によっては慣れたり、環境整備をするのに時間がかかったり、周辺機器接続で余計な出費や持ち運ぶ荷物が増えることもあるだろう。正直、これまでのMacBook Proと比べても、移行のハードルは高めだ。

 だが、当面は今後のMacBook ProからTouch Barがなくなることはないだろうし、進化したThunderbolt 3から再び古いUSB 3.0に戻ることもないはず。そういう意味では、今後ずっとMacBook Proを使い続けるつもりの人は、早いうちに購入してこうした変化に慣れておいても損はない。人によっては新MacBook Proならではの最新テクノロジーの恩恵を享受し、そのアドバンテージを生かして、仕事のやり方そのものを進化させる人も出てくることだろう。

 実際、25年前、キーボードの手前にトラックボールを配した斬新な形で世の中を驚かせたApple初のノート型Mac、PowerBookシリーズを使い始めた人たちや、1998年にそれまで一般的だったレガシーな周辺機器接続方法を切り捨て、未成熟だったUSBに絞り込みながらも大成功した初代iMacのユーザーのように、Macユーザーは伝統的に“新しい地平の開拓者”となる人が多い。

新操作体系「Touch Bar」はPCの新しい使い方を切り開くことができるだろうか

性能=CPU処理速度という誤解への終止符

 ここからは、冒頭で触れた4つのポイントについて、さらに細かく検証していく。まず1つ目はパフォーマンスだ。最新製品は、旧製品と比べて性能向上を感じられるようになっているのがパソコンの世界の常。そうでもなければ古い製品から乗り換える必要がなくなってしまう。この点においては新MacBook Proも業界の常識に沿っている。

 ただ、その性能向上の仕方が業界の慣習通りではない(この部分は細かい話になるので、興味がない人は、最新のTouch Barなどに触れた次項まで読み飛ばして構わない)。パソコンに詳しい人の中には、新MacBook ProのCPUが最新世代のものではないことを指摘する人もいる。MacBook Proが搭載するのはSkylakeというコード名がついた第6世代Coreで、2017年以降に採用が広まる見通しの第7世代Core(Kaby Lake)ではない。

 これはパソコンの性能向上がCPUを中心に行われてきた業界の慣習に縛られた人にとっては驚かされることかもしれない。ただ、こうした慣習を打ち破るあたりもAppleらしいところと言える。

 今回、レビュー用機材として試用したのは、2.9GHz Intel Core i5/8GBメモリ、500GB SSDという構成の13インチモデルと、2.6GHz Intel Core i7/16GBメモリ/250GB SSD という15インチモデルだ。このCPUをGeekbenchで計測したところ、MacBook Proの2015年モデルとスコアがほとんど変わらなかった(ただし、15インチモデルに関しては、新型の下位モデルと昨年の最上位モデルがほぼ同じ性能なので、新型の最上位モデルは少し上回っていそうだ)。ちなみにこのモデルでもシングルコアの性能ではMac Proを上回り、全コアの合計の性能でもMac Proの9割の性能に迫っている。驚きだ)。

GeekBenchの結果。2.6GHz Intel Core i7を搭載した15インチモデル(画面=左)と2.9GHz Intel Core i5を搭載した13インチモデル(画面=右)

 このように、CPUの急激な進化がなかったにも関わらず、Appleの公称値でFinal Cut Pro Xでのレンダリングが最大57%向上したり、Autodesk Maya 2017での3Dレンダリングが130%高速化していたりと、パフォーマンスアップを実現しているのはなぜか。

 ベンチマークソフトと呼ばれるパソコン用パフォーマンス測定アプリの多くは、単純なハードウェアの性能を測っているに過ぎないが、実際に日々の仕事でさまざまなアプリを使ったときに実感する体感性能は、CPUやGPU、メモリ、内蔵SSDといった主要パーツのスピード、さらにはそれらの間で大量のデータを相互にやり取りするスピードのバランスが生み出している。特に高解像度の写真や短時間に大量のデータが行き来する4Kビデオの取り扱いなど、巨大なファイルを扱う作業ではストレージの性能が一番物を言う。

 新MacBook Proでは、この内蔵SSDの性能が最大で100%も速くなった。海外のメディアで紹介されている分解記事では、交換不可能なSSDが基板に埋め込まれている様子がみてとれるが、おそらく今回の製品仕様に最適化したSSDを、最適な位置に埋め込むなど数々の細かいチューンアップを経て、このスピードを実現しているのだろう。

 またあえて最新CPUを採用していないのは、バッテリー性能なども含めたさまざまな要因から総合的に判断したものと思われる。MacBook Proはプロ向けマシンであると同時にノートPCでもあり、外出先でどの程度仕事ができるかも製品バランスを考える上で重要になる。

 こうした点は、Appleの公式ホームページに、新型15インチMacBook Proが採用するGPU(Radeon Pro)は「1W当たり最大2.5倍の演算能力を発揮」と記述していることからも分かる。Appleが基準にしているのは単純なクロックやベンチマークソフトのスコアではなく、この「1ワット当たりの性能」のようだ。ちなみに、15インチモデルをバッテリー動作で使用してみたところ、単純な音楽再生やテキスト作業だけであれば公称の10時間を超えた。

 さて、MacBook Proを使う多くのクリエイティブプロフェッショナルにとっては、システム処理性能以外にも、色々と気になる“性能”がある。

 まずはディスプレイ性能だが、これは従来のモデルより67%明るい500nitの輝度を実現した。またコントラスト比も67%向上し、写真や映像、ゲーム画面などで白がより明るくなり、黒はより深みを増している。同機のRetinaディスプレイで表現できる色はsRGBと呼ばれる色表現の基準をさらに25%上回っており、太陽光の下で撮影された赤や緑がよりリアルかつ鮮明に再現されるようになった。

Mac史上、最も明るい液晶ディスプレイを搭載。コントラストも増している(写真は13インチモデル)

 さらに映像や音のプロフェッショナルのために、スピーカーの性能も向上している。音量は58%アップし、映画などを楽しむ際にも迫力の大音響を提供してくれる。迫力といえば、低音の音量も最大2.5倍になっており、音のダイナミックレンジは2倍に広がっているという。

 CPU単体の性能ではなく、バッテリー動作時間も考慮した上でのトータルの処理能力、そして繊細な色表現や、音の中の小さなノイズにも気づかせてくれるスピーカーの採用など、総合力でいえば新型MacBook Proは間違いなくクリエイティブプロフェッショナルの理想のマシンとして十分な素質を備えていると言える。

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