2017年秋、「Windows 10」にまた新たなエディションが追加される。
米Microsoftはリーク情報が出回っていたワークステーション向けOSの「Windows 10 Pro for Workstations」を8月10日(現地時間)に正式発表した。パフォーマンスや信頼性が必要な業務向けの最上位エディションで、2017年秋にリリース予定のWindows 10大型アップデート「Fall Creators Update」の一部として提供が開始される。
Windows 10の名称が付与されたOS製品は、MobileやXbox One、IoTといったPC以外のプラットフォーム向けを除けば、「Windows 10 Home」「Windows 10 S」「Windows 10 Pro」「Windows 10 Enterprise」「Windows 10 Education(Pro)」などのエディションが用意されている。
価格も用途も異なるこれらエディションだが、実質的に中身は一緒であり、ライセンス形態によって各種機能制限がかかっているにすぎない。そのため、機能制限がかかっているHomeを除いた最上位エディションのWindows 10 ProとWindows 10 Enterpriseについては下記のスペックが上限だ(論理コア数のカウントについては、AMDなどプロセッサのアーキテクチャによってカウントが異なる)。
一方で、Windows 10と同系列のコアを採用してサーバ製品として提供されている「Windows Server 2016」については「Standard」と「Datacenter」の2種類のエディションが用意されており、こちらの最大搭載メモリは24TBだ(Windows Server 2012 R2では4TB)。プロセッサについても4ソケット(4way)以上、論理コア数はHyper-V有効時に512コア(Windows Server 2012 R2では320コア)までサポートする。
こうしたサーバ向けWindowsのスペックは、膨大なリクエスト処理や複数アプリケーションの同時動作で必要とされるからだが、同様に高いパフォーマンスを一般的なWindows OSで利用したいというユーザーも少なくない。特に大規模な演算処理を必要とするプロフェッショナル用途では、「ワークステーション向けのWindows 10が欲しい」というニーズが以前から存在していた。
今回の新エディションは、MicrosoftがWindows Insider Program参加者らのフィードバックを経て、これに応えた形となる。
Windows 10 Pro for Workstationsは、プロセッサが最大4ソケットまでサポートされ(従来は2)、メモリも6TBが上限となっている(従来は2TB)。
基本スペックではWindows Server 2016には及ばないものの、特に大量のメモリを消費するアプリケーションを稼働していたり、Xeonを搭載したマルチプロセッサ構成のシステムを利用しているユーザーには、ハードウェア本来のスペックを生かせる改善がありがたいはずだ。
単純なハードウェアスペック制限の開放だけでなく、Windows 10 Pro for Workstationsでは幾つかのサーバ向け機能の採用により、クライアント向けOSでもパフォーマンス改善に向けた取り組みが行われている。
その1つが「SMB Direct」だ。「Remote Direct Memory Access(RDMA)」と呼ばれる機能をサポートしたネットワークアダプターが搭載されたマシンにおいて、ファイル共有プロトコルのSMBを介したリモートの巨大データ転送がCPUに負荷をかけずに、低遅延で高速に行えるようになる。もともとWindows Serverの標準機能で、「なぜクライアント向けWindowsでは使えない?」という話が度々出ており、ようやく今回の新エディションに追加された。
同様に、パフォーマンス向上の一環として「NVDIMM-N」をサポートする。NVDIMMとは「Non Volatile DIMM(不揮発性DIMM)」メモリの略語だが、NVDIMM-NではDIMMモジュールに通常のDRAMだけでなく不揮発性メモリも搭載し、バックアップ機構を備えている。そのため、NVDIMM-Nでは電源をオフにしてもメモリにデータが残る。
NVDIMM-Nでは通常のDIMMで供給されるDRAMとほぼ同じ速度でメインメモリにアクセス可能だが、この過程で頻繁にアクセスするアプリやデータがNVDIMM-N上に残り続けるため、より遅いストレージへのアクセスが減ることで、パフォーマンスを最大化できるメリットがあるというわけだ。
そしてパフォーマンスと並んでWindows 10 Pro for Workstationsにおける大きな強化ポイントが信頼性だ。ファイルシステムとして「ReFS(Resilient file system)」をデフォルトで利用可能にしており、Microsoftは「クラウド並みの回復力(Resiliency)」を実現すると説明している。
もともとは2012年にWindows Server 2012用のサーバ環境向けファイルシステムとして紹介され、クライアントPC向けには翌年の「Windows 8.1」でサポートされた。そのため、Windows 10においても利用が可能になっている。
ReFS最大の特徴は、全てのファイルやメタデータに対してチェックサムを持ち、その完全性を保証する点にある。例えばエラーやストレージボリューム内の欠損を発見した場合、記憶域スペース(Storage Spaces)内に設定されたミラー領域やパリティ領域からファイルを自動修復し、処理の続行を可能にする。
NTFSで最大256TBだったボリュームサイズは4.7ZB(ゼタバイト)まで拡大されており、前出のデータの完全性を保証する機構と併せ、サーバやワークステーションのような大容量データ処理に向いた作りとなっている。
一方で、NTFSでは提供されていた「ファイル圧縮」「ディスククォータ」「起動ドライブ」といった機能が省かれており、一般のPC用途での利用には向いていない。あくまで大容量ストレージや大規模データを取り扱うワークステーション向けの機能だ。
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