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新規参入が「モノはいいけどサポートは残念」になる理由牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2017年10月31日 08時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
work around

 あるジャンルでは名の知れたメーカーが、それまで手掛けていなかったジャンルの製品を、ある日いきなりまとめて投入することがある。また、これまで名前を聞いたことがない未知のメーカーが、他社も真っ青の充実したラインアップの製品群を一気にドンと投入し、驚かされることもある。

 利用者の立場からすると、これらがどれだけ魅力的かつ安価だったとしても、過去の実績がないぶん、本当にきちんと使えるのかどうか不安なものだ。前者の場合、本業が不調なので博打(ばくち)に打って出ただけかもしれないし、後者の場合だと、何よりもそのメーカーの素性が明らかにならないと、なかなか手が出しづらい。白物家電やPC周辺機器のように高額な製品ならなおさらだ。

 もっとも、こうしたラインアップが一斉に発売されるパターンは、いったん店頭に並んでしまえば、一定の成功を収めることが多い。しかしその後、軌道に乗ってからしばらくたったタイミングで、急速に評判を落とすケースがあるのも事実だ。今回はPC周辺機器やアクセサリーなどのメーカーを例に、そんな裏事情を見ていこう。

新規ジャンルは経験者によって立ち上げられる

 既に名が知れたメーカーが新規ジャンルに乗り出す場合も、あるいは新たに立ち上げられたメーカーがラインアップを引っ提げて参入する場合も、全く経験も知識もない中で新規ジャンルに参入するほど無謀ではない。よくあるのが、過去に同業他社でそのジャンルを手掛けた経験のあるスタッフが中心になり、別の会社でそのジャンルを立ち上げるパターンだ。

 明確に新規ジャンルを立ち上げる意図を持って他社から人材をごっそり引き抜く場合もあれば、たまたまそのような人材が中途採用に応募してきたことが、新規ジャンル参入のきっかけになることもある。さらに冒頭に述べたように会社ごと興す例もあるが、どの場合も、それまで第一線でバリバリやっていて現場感覚が豊富なだけあって、ポイントを外すことはまずない。

 もしその人が開発担当であれば、製品の設計や製造にあたってのポイントは熟知しているし、外注先の工場を使う場合はそのキャパや、海外業者であればコミュニケーションが問題なく成立するか、技術レベルは一定以上か、といった点も把握できている。それだけに、品質面で大きなミスを犯す可能性は極めて低い。

 製品ラインアップについても前職時の反省を生かし、売れ筋を中心とした回転率が高い製品が中心になる。またその担当者が販促や営業戦略にもまつわる知見があれば、パッケージのデザインや販促ツール、広告展開、さらには拡販のためのキャンペーンなど、隅々に至るまで前職の経験が生かされたものになる。いわば前職が壮大な実験場になっているわけだ。

 特に、前職で不遇をかこっていたか、あるいは首切りなどにあって不本意な退職の仕方をしていたところに一定の権限を与え、かつ期待の言葉をかければ、前にいた会社への反骨心と合わさって、普通では考えられないようなパワーを発揮することも少なくない。こうした効果を期待して、別会社からチーム単位で引き抜くケースもある。

 また、こうした開発スタッフを中心としたチームに、営業を担当していたスタッフが加わると、古巣メーカーのシェアを一気にひっくり返すことも現実的に起こり得る。彼らは古巣メーカーの原価率や販路、さらには販売店の意思決定のキーマンは誰かといった、第一線にいた人間しか知り得ない情報まで把握しており、販売店と既に信頼関係ができているので、売り込みを行うにもスムーズだ。

 さらに、古巣が応えられずに放置されている要求を飲むことで、売場を丸ごとひっくり返すこともよくある。例えば、販売店が新店オープンやボーナスセールなどを理由に要求してくる多額の協賛金を、のらりくらりとかわしているメーカーは多い。それを利用して「ウチなら協賛金を言い値で出します。その代わり他社の売り場をうちに丸ごとください」とやるわけである。

 販売店のバイヤーとしても、予想していなかった相手からいきなり数十万、規模によっては数百万もの協賛金がドンと入ってくるのだから、こんなにおいしい話はない。最初のうちは製品の品質やサポート体制への不安もあるものの、売り込みに来ている営業マンは以前からの顔見知りとなれば、不安も少ない。取引口座の開設にこぎつけさえすれば、ラインアップの一斉導入も容易というわけだ。

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