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» 2018年06月28日 06時00分 公開

鈴木淳也の「Windowsフロントライン」:Microsoftが「Amazon Go」に対抗しようとする理由 (1/2)

米Microsoftは「Amazon Go」のようなレジ行列なしの店舗技術について開発を進めているという。ここで重要なのは、「小売店舗」という枠組みそのものが、最新技術によって「プラットフォーム」化されつつある現状だ。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 米Amazon.comの小売店舗である「Amazon Go」は、βテストの開始から1年近い期間を経て、2018年1月に米ワシントン州シアトルの1号店が一般開放された。店内にある多数のカメラとセンサーにより、客が手に取った商品を自動で認識し、レジで会計せずに店を出た後にオンラインで決済する――最新テクノロジーを駆使した新しい店舗の形として注目を集めている。

 2018年内には、米イリノイ州シカゴと米カリフォルニア州サンフランシスコにAmazon Goの新店舗がオープンする予定だ。Chicago Tribuneによれば、シカゴではランドマークとなっているウィリス・タワーと、オギルビー・トランスポーテーション・センターの1区画でAmazon.comがリース契約を進めており、2店舗で展開するとみられる。

Amazon Go 米ワシントン州シアトルの米Amazon.com本社1階に設置された「Amazon Go」店舗

 今後もAmazon Goの出店ペースは加速するだろう。顧客の行動を学習して蓄積されたデータを基にしたAI店舗システムは横展開が容易だからだ。Amazon.comは米国内だけで2000店舗程度の展開を目指しているという話もあり、この目標はそう遠くないタイミングで達成されると予測する。

Microsoftが目指している「Amazon Go」対抗の技術とは?

 こうした中、米MicrosoftはAmazon Goのような“レジ行列なし”の店舗技術について開発を進めているという。Reutersが6月13日(米国時間)に報じて話題となっている。

 Microsoftが開発中とされているのは、小売店舗において客がカートに追加した商品を追跡するシステムで、Walmartを含む世界の小売関係者に参考となる技術を開示しているという。

 Amazon Goでは店舗の天井に設置された複数のセンサーを組み合わせる(“Sensor Fusion”と呼ばれる)ことで、どの客がどの商品を取り出したり戻したりしたかを追跡しており、客は商品を持ったままレジを通過することなく店舗の外に出られる。

 手に取った商品はバーチャルカートという仮想的な買い物かごで管理されており、客の店舗退出後に登録済みのAmazonアカウントで自動的に請求が行われる仕組みだ。買うものが決まっている客であれば、入店から退店までものの数十秒で買い物が済む回転率の高さが最大の特徴で、Amazon.comはこれを「Just Walk Out Technology」と呼んでいる。

 Microsoftが同じ仕組みを採用するのかは不明だが、少なくとも「客の行動をITで追跡して買い物を支援する」という仕組みの実装を目指しており、これをどのように店舗展開するかは個々の小売事業者に委ねられると筆者は考えている。

Amazon Go Amazon Goの店内。天井には多数のセンサーが設置され、来店者の注目を集める

 Amazon Goは技術的、アイデア的に興味深い点が2つある。1つは機械学習を使った「来店客の動向追跡」で、店舗を営業すればするほど「賢くなる」点だ。βテストの期間が1年ほどと非常に長かったが、この1年で処理能力が大幅に向上した。

 今では、日本の一般的なコンビニエンスストアの広さの店舗に70人程度が密集していても問題なく行動が追跡できるレベルになったようだ。70人という制限は、恐らく消防法による最大収容人数規定によるもので、実際にはもっと大人数でも問題ないとみられる。テスト開始当初は数人程度の追跡が精いっぱいだったものが、1年程度でこの水準まで進化したのだ。

 よくAmazon Goはセンサーの設置コストだけで億円単位の予算がかかると指摘されているが、その本筋はSensor Fusionを活用して収集される膨大なデータ群であり、これがAmazon.comのクラウドを使って処理される仕組みにある。この学習データがあれば、店舗形状や商品が変化しても柔軟に対応できるため、Amazon Goの他地域への展開の他、Amazon Goの仕組みの同業他社へのOEM提供など、小売のプラットフォーム化も容易になる。

 展開される店舗が増えればセンサー自体の設置コストは調達効果も含めてどんどん吸収されていくため、この横展開の柔軟性こそがAmazon Goの本当に恐ろしい部分だといえるだろう。

 2つ目は「レジなし」というユーザー体験だ。小売業界の不問律として、「会計を終わらせるまで客を店の外には出さない」というものがある。これは商品を持ち逃げされないためだ。

 だがAmazon Goでは会計前に客の退店を許しており、実際に決済が行われるのも退店から1時間以上後というタイミングだ。これは、入場時にスマートフォンのAmazon Goアプリに登録したAmazonアカウントを通じて個々の客のクレジットカード情報を取得しており、後は店内での行動データを通じて得た情報を基に請求することでフォローしている。

 バーチャルカートはリアルタイムで参照できない点も特徴で、実際に買い物した内容は退店後に15分ほど経過してから初めて参照できる。この間に追跡データの再集計を行っているとみられ、1時間後の正式な集計までにユーザーにデータ修正の猶予時間を与えている。

 客は基本的に入店したときに2次元バーコードをアプリで表示させる以外ではスマートフォンに触れる必要がなく、会計に関する操作を一切意識しなくていい。逆転の発想というか、技術と運用で従来の常識を覆した点が興味深い。

Amazon Go 入店時にはスマートフォンのAmazon Goアプリに表示させた2次元バーコードをスキャンさせる必要があるが、退店時はゲートで一瞬止まるだけですぐに出られる
Amazon Go Amazon.comでは一連の技術を「Just Walk Out Technology」と呼んでいる
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