Apple新製品イベントの前に知っておきたい2年以上にわたる取り組み(1/3 ページ)

» 2018年10月30日 14時41分 公開
[林信行ITmedia]

 間もなくニューヨークにてAppleのスペシャルイベントが開催され(日本時間の10月30日23時)、新しいiPadなど新製品の登場が期待されている。

 実は筆者は都合がつかず、今回の発表会には参加しない。Appleスペシャルイベントの参加を断るのは、2011年以来、28年間で2度目となり少し残念だ。だが、恐らく今回の発表に大きく関わりがある、AppleとAdobeの“隠密の動き”を、2年にわたって取材してきたので、この機会にルポルタージュ風に記事化してみようと思う。

2016年、ニューヨークで開催したシークレットイベント

 2016年の春、Adobeから取材の誘いを受けた。取材先はニューヨーク。ただし、Adobeにしては珍しく「諸般の事情で詳細は話せない」というので「これはきっとAppleが関係しているな」とすぐにピーンと来て、受けることにした。

 ちなみに、事前に聞いた仕事の内容は「世界中のApple直営店で使われたキャンペーン用の内装を手掛けたこともある日本人アーティストの牧かほりさんが、2日間のイベントに参加するので、その様子を取材して発信してほしい」というものだった。

2016年に行われたイベント「 Make It On Mobile」の会場になったクーパーヒューイット美術館

 一応、Twitterでは実況中継をしたし、その後、ニューヨークのステキなバーでおいしいシャンパーニュを飲んで打ち上げもしたし、「これでお仕事終わり」と思って、そのまま記事化はしていなかった。

 そのうち、Adobeの広報が業を煮やして、私のツイートをまとめた記事を投稿してくれた(「林信行がニューヨークで見たMake It on Mobile」)ので「これはラッキー!」とそのまま放置して忘れていた。

 しかし、2018年に入ってから改めて振り返ると、このイベントはAdobeにとっても、そしてAppleにとっても大きな転換点となるイベントだったことがハッキリしてきた。

 そこで、(ちょっともったいをつけて)このイベントがどんな歴史的意義を持つのか、時計の針を今から29年ほど前の1989年にまで巻き戻そう(iPadと1989年に何の関係があるか、ミステリアスでしょう? 笑)。

 1989年、「Camp Adobe」という伝説のイベントが開かれた。1989年というのは、初代Macintoshの登場から5年目(機種にしてMacintosh SE/30やIIcx/IIci、Macintosh Portableが出た年)、そしてAdobeの歴史上ではIllustrator(通称、イラレ)というグラフィック描画ソフトをリリースして1年目、そしてPhotoshopという、その後の写真表現の歴史を変えた革命的なソフトを正式リリースする直前の年だった。

1989年のCamp Adobeの説明をする仕掛け人の1人、元New York Timesのスティーブ・ヘラー氏によるイベンチオの振り返り。こちらに記事もあります

 このPhotoshopの登場にあわせるように、印刷品質の画像を取り込める高精細なスキャナーなどが登場し始めていたこともあり、New York Times紙とAdobe、そしてAppleらの協力で、これからの時代を担う気鋭のアーティストを集めて、新しい時代を切り開くデジタル時代のアート製作を試してもらおう、と行われた2日間のキャンプイベントだった。参加したアーティストの中には、その後、世界的に活躍するPaul Davis氏やNancy Stahl氏なども含まれていた。

 この時代の前にも、マウスなどを使った簡単なお絵描きソフトはあったが、プロのイラストレーターが仕事品質でのイラスト作品や写真コラージュ作品を制作したのは、このイベントが初めてかもしれない。

 その後、Adobeはイベントで得たフィードバックを元にツールの改良を行い、今日では当たり前に行っているIllustratorやPhotoshopでのグラフィック制作のプロセスに結びついていった。

 2016年、私が招待されたイベントは、まさにiPad時代に、それを再現しようとする試みで「Make It On Mobile」と名付けられていた。モバイル端末、つまりiPadで新時代のクリエイティブ制作をしよう、という2日間にわたるイベントで、世界から16組の厳選されたクリエイターたちが呼び集められており、冒頭でも触れた牧かほりさんは、その日本代表として選ばれていた。

Make It On Mobileに日本からただ1人参加したクリエイター、牧かほり氏
彼女の作品

 会場はCooper Hewitt Museum。Adobeはこの数年前からiPhoneやiPad用のアプリ開発に力を入れ始めており、会場ではまずは「Adobe Capture」と呼ばれる、身の回りにある形だったり、色だったり、文字だったりを簡単に採取できる無料アプリなどの使い方などを簡単にレクチャーした。

身の回りの形や色、文字まで、何でも取り込んでしまう「Adobe Capture」

 講師の1人は、AdobeのiPad用アプリ第1号「Adobe Ideas」を作るきっかけになった有名イラストレーターのBrian Kekoa Yap氏で、Adobeツールを使った製作の凄技なども披露していた。

 その後、Adobeは長年、社内で開発を続けてきたというビットマップグラフィックとベクターグラフィックを自然に親和させられるiPad用ツール「Project Proteus」を特別に披露した。

参加者の1人、KATRIN EISMANN氏とその作品

 残念ながらイベント参加者が使える品質にはまだ至っていなかったが、2日目には参加者らが「iPadでも、こんなすごいポスターが作れるんだ」という驚きの作品を次々に披露。筆者も(そしてAdobeの社員も)驚かされて無事にイベントは終了した… …と少なくとも筆者は思っていた。

 しかし、この2日間の出来事は、Adobeにとってほんの序章にすぎなかった。

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