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「危険の研修こそVRの出番」 積木製作に聞く「研修用VR」ビジネスの現状西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(1/2 ページ)

» 2018年12月11日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 現状、VRはB2B市場向けの方が活発だ。一番分かりやすいのは、エンターテインメント施設や展示会、広告向けの「VRアトラクション」の開発だろう。だが、それとは別にビジネスの可能性が高く評価されているジャンルもある。それが「危険の体験シミュレーション」だ。

 今回は、研修を目的とした「危険体験VR」の開発を行う積木製作を取材し、市場の可能性やコンテンツ制作上のポイントを同社セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏に聞いた。

積木製作・セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏

VRで「危険を体感」、研修に効果を発揮

 まず、積木製作が開発してきた「危険を体験するためのVR」にどんなものがあるかを紹介しておこう。

 同社の案件として最も知名度が高いのが、明電舎とともに同社向けに開発したコンテンツだ。明電舎は電気設備などの開発・工事などを手掛けており、高所での作業や発火を伴う作業も多い。そこで、こうした作業をVRで体感するコンテンツを作成した。使っているのはHTC Viveとコントローラーの組み合わせで、一部、実際に使う工具なども持って体験する。

明電舎と積木製作が共同開発した、高所作業体験用VR
実際に使う工具を用いることもある
発火を伴う作業などが体感できる

 次に紹介するのは、大鉄工業が監修した「建設現場における仮設足場からの墜落」体験VR。これは、ある取材の折に筆者も体験している。建設現場の「仮設足場」での作業を想定したもので、ルームスケールVRを使いつつ、実際にその場を「歩いて」作業の状況を体感できる。その際に、どういうミスをすると落下事故が起きるのか、落下する瞬間どんな感じなのか、といったことを、VR空間の中で「足場から落ちる」ことで実感できる仕組みになっている。

鉄工業株式会社の監修により作られた「建設現場における仮設足場からの墜落」体験VR
落下事故の体感が目的だ

 「製造現場における巻き込まれ体験」のコンテンツでは、工場の中で起きることが想定される、製作機械への「巻き込まれ事故」の防止が目的のコンテンツだ。製造現場の手順を再現しつつ、その中で実際に「巻き込まれ」を体感する。

 単に映像として再現しているだけでなく、写真のような「巻き込まれ再現機材」を使い、自分の手が「巻き込まれていく」様子を感じることで、実作業での事故に近い感覚を得ることができる。もちろん、実際にケガをすることはないレベルのものなのだ。

「製造現場における巻き込まれ体験」のコンテンツ
巻き込みを再現する機器を併用することで、自分の手が巻き込まれる様子を体感できる

 こうしたコンテンツは1案件あたり数十万円の価格で、企業・団体向けに提供されている。その性質上、案件のほとんどはそれぞれの案件に特化したものになっており、発注側や関連企業からの綿密な情報提供に基づいて作られている。

 既に述べたように、筆者も「建設現場における仮設足場からの墜落」を体験しているが、実にリアルで興味深い体験だった。もちろん、しっかりとしたCGではあるものの、映像がリアル=現実に近い、というわけではない。

 だが、「どの範囲で動くのか」「そこに何があるのか」「どう動くと、その結果どんな危険があるのか」ということの表現・演出が非常にうまい。そのため、エンターテインメント的な「ドキドキ体験」とは違うものになっている。こうした部分は、同社が、2013年に配布が開始された、現在のVR用HMDの始祖ともいえる、「Oculus Rift DK1」のころから開発を続けてきた経験値が生かされたものだだろう。

建築向けビジネスからVRへ

 積木製作はもともと、建築系のパース図などのCGを手掛ける会社だった。そこに、いわゆるプリレンダー系のCGや建築専門のツールではなく、UnityやUnreal Engineのような「ゲームエンジン」を使った、リアルタイム系CGの導入が進み始めた。数年前のことだ。ゲームエンジンを使えば、そこからはよりリアルタイムでインタラクティビティの高いコンテンツ製作の可能性が生まれる。

 そこでなぜVR、しかも「危険の体験」だったのか? 関根氏は「どこからお金が生まれるかを考えた結果」だと話す。

 「建築は現場が強く、予算の7割を現場に近い部署が抱えています。だとすれば、そこにアプローチすべきだと考えました。広告宣伝向けの案件も多いのですが、それよりも、現場が実地で使えるものを作った方がより大きな予算が出る可能性があります」

 では、なぜそこで「危険の体験」だったのか? これは「VRの特性を考えてのこと」だという。

 「VRじゃないとできないことは、『そこにないもの』『そこにいけないもの』を体験することだと思います。建築の場合、『まだそこにないもの』を見せるニーズは以前からありましたが、体験をさせるものはありませんでした。例えば、原発の復旧や医療なども、あらかじめシミュレーションできれば大きな価値が生まれます」

 そうした考えから「危険の体験」を軸にしたコンテンツの開発が始まる。研修には多数の観点がある。建築作業中のような場面もあれば、建築後のメンテナンスのニーズもある。

 「例えば、プラントの設計を例に挙げましょう。設計データからVRにすれば、パイプとパイプの間にどのくらい間隔があって作業が可能なのかどうか、ということも分かってきます。こうしたことは、非常に大きな価値を持つはずです」

 そしてそもそも、「危険の体験」にはもっと切実な理由もある。

 「事故は起きてはいけないものです。一方で、起きてはいけないものだからこそ、『事故の経験を持っている人』もまた少ないんです。経験した人がその場にいないと、火災やガスもれといった非常時を想定した訓練をするにも、やはり問題があります。シミュレーションとしての体験訓練があれば、入場前教育として非常に大きな意味がある、と考えています」

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